2月1日 早朝寄席

「上野鈴本で行われる朝10時からの早朝寄席
「二ツ目の勉強会ですね」
「それが、今は本当の寄席よりも客が多いという……これは若手を育ててやらなければならないのに、何でも笑ってやると……」
「はいはい……このところ客に対する苦情が多いですね」
「本当の寄席は2700円でこの会は500円。それで手軽に笑おうというのかも知れないが、客席で飲み食いどころか平気で寝ている」
「大家さんだってよく居眠りするじゃないですか」
「本当の寄席は4時間半、夜席までいれば9時間。どうしても眠くなる。そうして、必ずいい気持ちに寝かしてくれる演者が出る。だから、普通の寄席なら寝るのが当たり前じゃ」
「じゃあこっちだっていいでしょう」
「違う。これは最初に言うように若手の勉強会。育ててやらないと……その意識のない人にはきてもらいたくないな」
「はいはい、でも500円で百人以上入ると、若手には助かるでしょう」
「単純計算で一人1万円か……今大物で人気もある人が出ていて客が3人というのを体験している」
「そうでしょう」
「まあ、とにかく、考える時期が来ているのかも知れないということで……本日はこれぎり」
「ちょっと……大家さん、中身の報告をしないと」
「あ、そうか、忘れちゃった」
「しょうがないね」
「まず林家たこ平。一言、滑舌が悪い。考えながら話すのでテンポもない。『小言念仏』だからそのテンポがいいのかも知れないが、乗らない。あくび混じりの念仏というのが一つの型になりそうじゃが、後はなあ……子供をあやすのもわざとらしいし……『かわいげのないガキだ。クスリともしねえ』って台詞があったが、ううん、クスリとも出来なかったな」
「続いては、三遊亭ぬう生
「『無精床』、やっぱりテンポが悪いな。だいだい嫌な店の話だから、陰気になっちゃあ聴いてられない」
鈴々舎わか馬
「これはテンポがあった。『新聞記事』を演じたが、なかなか良かった。ただ、細かい所に注意が不足しているな。例えば台詞で『悪いことは出来ないな』というのが、後で『出来ませんなあ』に代わると違和感がある」
「トリは柳家喬之進
「『井戸の茶碗』で、くすぐりの部分をちょっと強くしすぎ」
「というと……」
「若侍が屑屋を探すのに、『ひどい顔だな』というくすぐりは誰でもやるが、それがあまりに乱暴……他はいいのに、これだけで、ああ、あの娘、こんな奴のところに嫁ぐのか……可哀想に……なんて思ってしまう」
「誰でも演っているんでしょう」
「そうじゃな。しかし、四角い顔に穴を開けろ、足でなく顔で歩け……などという台詞になるとこれはもう暴力じゃ……これだけで侍としての品格に欠けることになる」
「ううん、難しいですねえ」
「ともかくも、5年前には芸協は落語協会に一歩遅れを取っているという印象が強かった。じゃが、このところのこうした若手の中身を吟味すると……実はこの後歌丸会長の芸協の寄席へ行ったが、珍しく満員でなかった。若手勉強会の方が満員なのに、同じ落語協会の本席も空席が目立つ……だから客が……」
「はいはい」
「まあ、それで、芸協の寄席へ行ったところ、中身は桁違いによかった。これはもちろん、真打が出てくるから当たり前じゃが……ただ、5、6年前は若手の勉強会でも勉強しているなって手応えを感じる部分が必ずあった。去年から今年に掛けて、良しっと言えるのは1回だけだったような……」
「まあ頑張ってもらわないとね」
「そうじゃな。ついでなので歌丸会長のご冥福……じゃない、ご回復を祈って、ご報告といたします」

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