2月1日 上野広小路亭

「さて、そういう訳で、早朝寄席を終えて上野広小路亭へ」
「こちらは今年初めてですね」
「落語芸術協会の寄席じゃよ。まずは前座、瀧川鯉ちゃで『新聞記事』」
「あれ……このネタ、午前中の早朝寄席でも出ていましたね」
「そうじゃな」
「午前には二ツ目、午後は前座ですが……」
「前座は時間が短い。それだけに無駄をはぶいた、引き締まったいい高座だったぞ」
「おやおや、前座からほめますか」
「まあ、客をわっと受けさせるまではいかないのは、まだ不足が多いのじゃ。それは徐々に分かるじゃろう」
「はい、前座がもう一人ですか」
昔昔亭A太郎で『たらちね』。まあ、二人目の前座じゃから、こんなものじゃろうな」
「さあ、これから顔付けに乗っている人で……まずは昔昔亭笑海
「『カラオケ裁判』。裁判員制度が始まるというので、被告が歌ってそれに採点をして判決が決まるというネタ」
「いきなり話題を取り上げていますね」
「それはそうじゃが、中身は大したことがない。ただ、落ちとなる裁判員になる人達の職業が面白かった」
「へえ、どんな具合です」
「魚屋さんはさばくのがうまい、パティシエは刑期をよく理解している、ストリッパーは判決を出すのがうまい……説明はしないので、分からない人は一生悩んで下さい」
「はい、まあまあってことですか」
「いやそれが……これはマクラ……これから『代書屋』に入った」
「あらら」
「中身は寿輔師匠のもの……まあ、寿輔師匠のは癖が強いから、かなり薄めている。もっと自己流になるといいのじゃろうな、悪くはないぞ」
「わしのファンクラブの会員じゃ。『厩火事』じゃ。女性だけにかみさんの心情をよく描いているな。女性噺家として最近悟っていると感じる」
一矢
「お馴染みの相撲漫談、初場所が終わったばかりなので、話題も色々あって面白かった。写真右上」
春風亭柳太郎
「『家見舞』。この人は演じているのか、これが地なのか分からなくなることがある。それが意外に味になっているのがおかしい。品良く演じているのがいいなあ」
山遊亭金太郎
「はい、うちの集会所で演じていただき、今日は写真を持参でございます」
「私的な挨拶はいいの」
「左上の写真がそれ。出し物は『お見立て』。病気から死までを違和感なく演じたのがさすがじゃな」
やなぎ南玉
「代演だったので写真を持参しなかった。次回……曲独楽は手際良く進み、上々」
「右の写真が……」
「はい、左が先に出た鹿の子、右が南玉。これが持って来なかった写真」
「仲トリの橘ノ圓
「病気になって治療のために女性ホルモンを打たれ、胸が大きくなって来たら、弟子がブラジャーを買って来たという……お馴染みの闘病生活で笑わせて、『反対夫婦』へ……録音で聞いたことがあるが、生で聞くのは初めてじゃ。ううん、ひどい噺だと思うが、生で聞くと説得力があるなあ」
「さて、食いつきは春風亭笑好
「『短命』。子供がいるのに良くやるね。わしも子供が小学校に入った頃に、『どうして短命なの』って聞かれて焦った」
「説明に困りますね」
「今は同じ息子から『長生きするよ』ってほめられている」
「はいはい。次は新山真理
「今回は着物で座布団に座って……中身はお馴染みの楽屋の様子を報告。右はアイドル時代の絵理と一緒に」
「続いて柳亭楽輔
「『饅頭怖い』じゃ。この程度の噺でも人物描写が大切なのじゃ。なかなか良かったぞ」
三笑亭可楽
「『六尺棒』をしっかり。さすがという出来」
春風亭美由紀
「はい、お馴染みの三味線漫談。歌声がいいな」
「トリは桂小南治
「さあ、例によってとぼけているような雰囲気から、『蜆売り』。『縮み上がり』ともいう、師匠だった小南が演じていたのを学生時代に聞いて以来じゃな」
「良かったですか」
「やはり人物描写じゃな。人情のある主人、おっちょこちょいの使用人、けなげな子供、実は店の人物として更に数人がいて、それぞれがちょっとだけ口を出す。その人物がよく描けているから、見事なドラマになっている」
「上々ですね」
小南治師匠じゃから、ちょっと大袈裟な表現もあるが、それはそれでいいのじゃな……ここがまだ固まっていない若手との差かも知れない」
「やはり、早朝寄席よりも格段レベルが上じゃな。昔は早朝寄席でもかなりな満足を得ていたのじゃが……」
「はい、これを持ってご報告と致します」

inserted by FC2 system