9月24日 池袋演芸場

 さて、池袋へ出て、池袋演芸場(写真左)へ。招待状をいただいていたので……
 前座はちよりんの「桃太郎」、女だから原作から離れて母親が子供に話すという型にしているが、やはり頼りない父親だからギャグになるのであって、母親では少々弱いか。
 扇里の「子ほめ」、まあこんなもんでしょう。
 扇辰の「目黒の秋刀魚」、殿様のわがままが可愛い。季節感をもっと感じさせてくれないかな。
 次の喜多八さん、「もう秋の落語が出るようになるんですねえ……じゃあ、夏の噺を」ってんで「おすわどん」。この人は珍しい噺をよく出してくれる。この噺も桂歌丸が掘り出し、三遊亭円楽が「城木屋」と交換して演じている。歌丸ではるか昔に聞いたことがある。怪談風に進むが少しも怖くならないのがいい雰囲気。この人は円朝祭りが面白い。飲み屋をやるが、自分で飲んで酔っている。昼間ではまともだが、夕方になるとへべれけ。協会のグラスを持っていくと半額なのに、「1杯くれ」というと新しい紙コップについでくれる。「これ持ってきたよ」って言うと、「あ、ゴメン」てんでグラスに入れてくれて半額。紙コップを返そうとすると「いいよ、乾杯しよう」ってんで要するに1杯タダにしてしまう。一緒に飲んで、もう1杯。泡ばかりなので文句を言うと、「これただでいいから」、更に「これはお詫び」ってんでもう1杯ただでくれる……訳が分からない。
 アサダ二世のとんでもないマジック。トランプをひかせたらハートの12。「これでしょう」と出したのがダイヤのエース。「違うよ」と言われて枠から出すと、何とダイヤの12に変化する。「ダイヤじゃなくってハートだ」と文句を言ったら、「そんな細かいこと気にしないの」って……そんなのばかり。この人はあやしい。円朝祭りで、100円ショップの品を300円で売っていたしね。
 志ん輔の「野ざらし」。昔の演者は全体を侍の話から怪談調で始め、全体に落ち着いた感じで演じていた。最近は真似をして骨(コツ)を釣ろうという男が最初から中心で、怪談噺も笑いに包む。志ん輔さんのはそれを更に盛り上げて行く。見事なテンション。
 仲入り前は扇橋の「藁人形」、人物二人の生い立ちを仕込み、女が金を手に入れるための台詞も説得力があり、聞いている方も本当かしらって気になる。すごい芸だ。
 仲入りで池袋演芸場グッズを購入。ここの名物は何と言っても「キティちゃん」。扇子を持って座布団に座っている落語家キティちゃんはここにしかない。手ぬぐい、タオル、メモ帳、キーホルダーなどあり。写真右上がメモ帳、タオルも同じデザイン、キーホルダーはキティちゃんのみ。左下が手ぬぐい。今回は他にこの演芸場の手ぬぐい、提灯を購入。
 さて、食いつきは萬窓の「転宅」、前半の男女のやりとりのテンポの良さ、後半の煙草屋の主人とのやりとりもトントンと進み、気持ちよく進んだ。
 はん治の「ぼやき酒屋」。知っている噺だが、耳にしたのはこの1年間くらい。なるほどと勉強させてもらった。
 紫文三味線漫談。おなじみの「長谷川平蔵」シリーズだが、客席で「あ、これはこの落ちだ」と全部喋る馬鹿がいて、しらける。ドラえもんまで登場……

 一日の仕事を終えたであろうドラえもんと、水商売らしい女がすれ違う……とたんに、ドラえもんの体が前のめりに倒れる。
「ドラえもんさん、けがはないかい」「はい、僕は大丈夫ですが……のび太君のママが、のびたまま」

 トリは扇遊の予定だったが、代演で正朝の「井戸の茶碗」。これもさっきのおじさんがこれはこうなるんだと喋っている。ところが、正朝の演出は屑屋の明るさを中心にすえ、武士の台詞でも屑屋の立場で大いに笑わせた。そして、娘をやろうと決心する場面では客席をシーンとさせる。見事なメリハリである。
 本当に満足のいく席。いつも行く上野広小路亭よりも2時間も少ないのに、この充実感は何だろう。決して大物は負けていないのだから、若手はともかく、中堅の差だろうか。問題を色々提起された一席でした。

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