2月6日 上野広小路亭

「さて、広島から帰って、日曜日は唯一の休日」
「ゆったり休みましょうって……て寄席かよ」
「あ、タイトルで勘付いたな」
「誰だって分かりますよ。疲れて帰ったのに、明日は仕事でしょう。大丈夫ですか」
「ううん……職場で寝れば大丈夫じゃろう」
「また、いい加減な……」
「そういうことで、上野広小路亭へ、レッツゴー」
「はいはい」
「前座は神田あっぷるちゃんで『奴の小万』、その生い立ちから。まあ、前座と言えばそれまでじゃが、講談は口調で聞かせるから前座でもかなり上手く聞こえる」
「あっぷるちゃんも」
「ううん……まだまだじゃな。詰まったりする場面が多い……ただ、前座では分からない……まだ慣れていない演目に挑戦しているかも知れないしね……だから拍手はする」
「はい、伸びるのを期待しましょう。顔付けに出ている人に参りましょう……最初(はな)は、桂夏丸君」
「今日は彼がお目当て。前日、我が町の落語会に来てくれたのに、わしが出張で広島に行っていた」
「前回も仕事で行けなかった」
「そう……それでアンコール企画だったのに、またしても……それで申し訳ないということで、広島の土産を持参」
「はい、出し物は」
「マクラは相撲の問題から。落語に『雷電情け相撲佐野山)』など八百長ネタがあるのにね……協会がバカだから、今まで一切無かったのに、今回初めて本当かも知れないという……」
「本当に馬鹿ですねえ」
「わしがカタカナで喋っているのに、お前が漢字で話すな」
「聞いてる人は分かりませんよ」
「まあ、これを話すと長くなるのでいずれ……夏丸君はそこから『稲川千両幟』に持っていった。笑ってくれるお客様もいたし、マクラから引きつけていて素晴らしい出来じゃったな。後は最後をどうするか」
「最後って」
「蕎麦を利用した落ちが付いて……でも、それではその後努力して横綱になるという締めがない。落ちで拍手が起こるから、タイミングが難しいな。これから更に磨けそうじゃな」
「はい。春風亭笑好
「マクラはお馴染みで……実はわしはこの人の口調はどうも……」
「いつも評価は悪いですねえ……今日はどうですか」
「実は良かった」
「あら、そうですか……出し物は」
「『善哉公社』。理不尽な公社と純真な主人公佐藤さんの対比が面白い。同じネタ前に聞いた時は感心しなかったのじゃがなあ。良かったぞ」
「はい、続いてぴろき
「お馴染みのギタレレ漫談。テレビで人気になっているが、生で見るといかにも怪しくて面白いぞ」
三笑亭可龍
「はい、期待の新真打(昨年昇進)。『雛鍔』を演じたが、夫婦と子供と隠居という人物の描写、そのやりとり、実にいい。鶏冠頭とこの実力の差は何なのじゃ……期待出来るな」
「続いて桂歌若
「『長屋の花見』。嫌々行く長屋の衆のおかしさ。それが半ば自棄になっての宴……笑いの中に哀しみが感じられる」
翁家喜楽
「お馴染み大神楽。傘とバランス」
「仲トリは三笑亭笑三
「わーい、お爺ちゃん……わしより30歳も年上。背中が曲がったが、声は元気。数年前のように客席に握手をしに行くのは無理かな……でも、それで芸になっている」
「軽いネタが多かったですね」
「ところが何と! 何と、何と、なんと〜!」
「大声を上げて、どうしたんです」
「出し物が『悋気の火の玉』じゃ……ううん。こんな本格のネタを聞いたのは始めてじゃな……すごい。笑三師匠らしく、声のメリハリを生かし、落ちにつながる台詞を印象付け……素晴らしいなあ」
「はい、ここでお仲入り……食い付きは三遊亭遊史郎ですね」
「「真打になる時に笑点に出たら、この声に笑いが起きたな……その後真打昇進披露興行に行ったが、このブログで幾つか注文を付けた」
「はい」
「某有名全国紙の批評欄に、全く同じ内容が書かれていたってメールが来たな」
「あら、そんなことが……抗議は出したんですか」
「当時は岡山に赴任していて、全国紙は読まなかったんで、1週間もしてから知った……まあその程度の評論家ならしょうがないって……」
「はいはい。今日の話に行きましょう……って、もう過去だけど」
「出し物は『六尺棒』。実は人物描写に注文を付けたのじゃ。笑いの起こるキンキンした声が続くと食傷してしまう。それが今回のは良かったぞ。息子はお馴染みの遊史郎口調だが、父親に深みが感じられた」
「いい出来ってことですね。続いて新山ひでややすこ
「お馴染みの夫婦漫才じゃな。今回はやすこの歌があったが、会話の方は乗りがもう一つという印象。受けていたのだから悪いというのではない」
春風亭柳好
「『町内の若い衆』。明るく軽く、品良く……これこそ艶噺ということじゃ」
三笑亭夢太朗
「『お見立て』。前半のやりとりを省略して、すぐに死ぬことに……幇間の明るさがいい。噺の中で『お見立て』という言葉を説明しなくてもいいかな……まあ『町内の若い衆』が出るくらいで、お客様も大人ばかりだったし……」
「はい。松旭斎八重子
アンドプラスワンを付けなければならない。お馴染みのマジックじゃ。わしは花の色が変わるマジックをやり、鋏で紐を切り、その紐をもらった」
「どうでもいい情報ですね……さあ、トリは桂平治
「この人は前世紀から注目していた」
「大袈裟な……10年ちょっと前ですよ」
「まだ二ツ目だったが、何かイベントがあるとそこに挨拶に来ていた。もう見た瞬間、いかにも噺家らしくて印象的じゃった……その後真打になって、初めて名前を知ったほどじゃ」
「へえ……で、今日の出し物は」
「『二番煎じ』。これがまた……本格の歌があるかと思うと、夜回りの雰囲気がいかにもマンガチックでおかしい……この人も常にテンションが高いのじゃが、今回はマンガ風な部分の笑いをたっぷりと味わわせながら、落ち着いた静かな部分を入れ、雰囲気をどんどん変えていた。猪鍋を食べ、酒を飲む様子が一人一人全て違うのも素晴らしい。その都度拍手が起こるのじゃから……お客さんもお見事だね……一人だけ一々口を出す人がずれていたが……全体的に雰囲気もいい」
「いやあ、いいですねえ」
「そうじゃな……こうしてまとめると、少しも悪いのがいないじゃないか……全部OKというのは、年に一度あるかないか……」
「今年の運勢使い果たしましたね」
「そう思うくらい、いい席じゃった」
「はい、そういうことで」
「満足この上ない一席でございました」

inserted by FC2 system