「今年最初の落語会は、芸協噺の会
芸協とは」
落語芸術協会。東京には大きな組織が二つあり、桂歌丸会長の方がこれ」
「もう一つは」
落語協会。『らっきょう』と省略される」
「本当ですか」
「嘘に決まっているじゃろう」
「ひどいね」
「今回は芸協の若手が芸協にしか伝わっていない噺を演じるというもの」
「そういう作品もあるんですか」
「昔は落協は古典、芸協は新作というイメージがあった。そのイメージを持っているかどうかで年寄りかそうでないかを判別できる」
「変なの」
「それで、今回は新作古典を問わず、芸協でしか聞けないものを集めたという訳」
「へえ、すごい企画ですね」
「ところが、一つ一つが短い噺が多いので、マクラを抜きにすると1時間かからない」
「あらら……どうします」
「そこで、まずは芸協についての座談会」
「なるほど」
「ところがこれまた実にいい加減で……」
「どうしました」
「こんな噺家がいるって紹介しようとしたのじゃが、桂文治だけでおしまい」
「どうしてですか」
「それだけ面白いのじゃろうなあ」
「しょうがないね」
「ということで、落語に入ろう」
「まずは桂夏丸の『青い鳥』」
「これは夏丸をよく聞いている人にはおなじみじゃな」
「はい。座談の続きで、芸協の大御所についての導入が10分近くあったかな。円右が死ぬ2月前に教えたもので、寿輔に上げてもらったという。本人は演じていて恥ずかしいと言うが、喜んでやっているようにしか見えない」
「右上の写真は」
「歌の『恋をした』という部分を『鯉』で踊る場面。円右のはいかにもお爺ちゃんのギャグという感じだったが、夏丸が演ると若さもあって見ていて気持ちいい」
「続いては春雨や雷太の『古着買い』」
「前半は『壺算』や『人形買い』によく似ており、後半の喧嘩は『大工調べ』と同じ。実はこのネタの方が古いのじゃ。小さん(3)が『大工調べ』にこのやりとりを入れたという」
「へえ。で、雷太は」
「後半の啖呵に拍手が起こる出来。よかったぞ」
柳家小蝠の『ぐずり方』」
柳家権太楼(1)が作ったもの。この権太楼は訳の分からない作品を多く残している」
「へえ、例えば」
「若旦那が可愛がっていた猫をどこに埋葬するか、田舎からわざわざ番頭が相談に来る」
「はい」
「なぜ死んだかと尋ねると、馬に蹴り殺されたから。その馬はおとなしいのに、なぜ猫を蹴飛ばしたのか尋ねると、厩が火事になったので驚いたのだと言う。なぜ火事になったかと聞くと、母親が火を点けた。なぜそんなことをしたか、母親が気が狂ったから。その原因は父親が切腹した……」
「ん……何だかよく分かりませんね」
「実は説明出来るのじゃが、噺家でも知らないらしい。説明するほどややこしくなるので、いずれ落語紹介で」
「で、今日の噺は」
「今日のネタも、子供が買ってほしい物があるのに、わざと逆手を使う。うまくやられた母親が夫に同じ手を使う……古い速記に『ぐずり方教室』という題名があったはずじゃ……これから調査」
「さあ、トリは三笑亭夢吉の『殿様団子』」
「これは明治を舞台にした士族の商法の一つ。現在演じられているのは『鰻屋』くらいかな。菊之丞が素晴らしい」
「はい」
「他には車屋汁粉屋鍔屋などが残っているが、演じられることはないな」
「で、今日のこの噺は」
「商売を全く知らない殿様が、何か商売をしたいという前半。団子屋になっての目茶苦茶に文句を言えない客が哀れな後半……衛生的ではないが、夢吉が演るのは聞いていて不快にもならない。それに殿様の描写が実にいいなあ。これなら後世に残るかも知れないな」
「はい、ということで」
「若手の力に大いに期待を抱く会でした」

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