12月23日 滝平二郎展

「さあ、仕事で水戸へ参りました」
「今回のお仕事は」
親子の絆についての講演」
「大家さんが話しても説得力がないねえ」
「そうなのよ」
「笑い事じゃない」
「先日、わしが毎日使っているバスが襲撃され、中高生が怪我をした」
「ありましたね」
「あの犯人がT一高の出身で、息子と同い年」
「あらら」
「その前の荒川沖の殺傷事件を起こしたのは土浦にあるK高校の出身で、息子はスポーツの大会で相手と対面している」
「あらららら」
「まあ、それがなぜ起こるのかってことを家族の問題から掘り起こしてみたのじゃ」
「真面目な話をしているようですね」
「お客さんみんな、腹を抱えて笑っていたな」
「何でもお笑いにしちゃうんだね」
「笑い事じゃないから、真剣に考えてほしいなあ」
「大家さんが悪いんでしょう」
「ま、それで昼食をいただいて、水戸県立美術館へ」
「もう写真が出ています」
「『さよなら滝平二郎展』が開催されている」
「切り絵で有名ですね」
「切り絵といえば、藤城清治さんがすごいね……小学生の頃に天気予報の小人が印象的で、小学校でも影絵公演をやってくれた」
「はい」
「それで、展覧会に何回か出掛けて小人達にも人間愛が裏打ちされていることを確信した」
「小人に人間ね……よく分かりませんが……」
「さて、滝平二郎さんの方は大学時代に絵本研究で『八郎』のダイナミックさと『花さき山』の繊細さに感動したものじゃ」
「作者は昨年亡くなっていますから……」

「そう、初期の作品から晩年まで、集大成した展覧会。すばらしいぞ」
「で、何か発見は」
「先ほどの絵本では花のアップなどもあるのじゃが、彼の作品には全てに人間が描かれている」
「はあ」
「考えてみれば、花のアップも、そこに人間が感じられるのじゃが……自然そのもの、季節などをテーマに描いても、その自然を背景に人間がおり、季節の移り変わりを感じる人間が描かれているのじゃ」
「いい発見でしたね」
「そう。午前中の親子の絆も、藤城さんも滝平さんも……今日は全てに人間愛があったということじゃ」
「無理にテーマをまとめようとしているな」
「さあ、この日は中村彝(つね)のアトリエも公開されていた」
「写真右です……いい雰囲気ですねえ」

「はい、おまけにこのすぐ前の木を」
「どうでもいい」
「これをもって水戸出張の読み終わりと致します」

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