12月1日 アクア・トリニティ演奏会

「さて、お待たせしました。アクア・トリニティの演奏会でございます」
「これは……どういう関係です」
「ヴァイオリンの絵里子さん、チェロの水谷川優子さん、チェンバロの水永牧子さんのトリオ。5年前に岡山へ行く前の演奏会でさんと写真を撮って、今回その写真を持参」
「それがお目当て」
「チェンバロと古楽器ではない弦の組み合わせはすごい。はっきり言えば音が合わないのじゃ。それを3年かけて作り上げ、これならCDを出しても恥ずかしくないということで、今回『水の薫り』というアルバムを発売した」
「はい、その発表会ですか」
「正式には来週8日の水曜日、上野の東京文化会館小ホールで演奏会が行われるので、皆様もぜひお越し下さい」
「大家さんは」
「ちょっと仕事の都合が」
「この日……同じ曜日ですが、大丈夫だったんですか」
「定時で職場を出て、駅まで2キロを20分きっかりで歩いた」
「すごい」
「それで、わしが会場に入った途端に演奏が始まったのじゃ」
「大変ですねえ」
「まずはモーツァルトの『魔笛』より、パパパ水永さんはチェンバロでモーツァルトはあり得ないと言っている」
「そんなことがあるんですか」
「あるじゃろうな。音楽そのものが全然違う世界になっていることは言うまでもないし、わしもフルートを演奏するが、バロックは現代の楽器で演奏するとやはり違和感を感じるのが本当だと思う」
「それに挑戦ですか」
「よくここまで仕上げたと自分をほめていた」
「大変なんですね」
「続いてルクレールトリオ・ソナタ。これはヴァイオリン奏者の作だから、ヴァイオリンの技巧は高い。ヴィオラ・ダ・ガンバのパートをチェロに置き換えたのがとてつもないテクニックになる。だから水谷川さんを見ているようにって二人が説明。本人は見つめられると困るって言っている」
「みんなが大変な曲ですね」
「磯さんはバロックは座って演奏。素人には違いが分からないが、多分力の入り方が変わって来るのじゃろうな」
「プロの技ですね」
「トークではCD録音の秘話も……録音の人も凝って、曲によってマイクの位置を変え、バロックと近代ではマイクその物も別の物を使ったという」
「すごいことですね」
「さあ、モーツァルトでさえチェンバロには乗らないというのに、次の曲はピアソラの『』」
「ええ……これはまた……」
「そうじゃろう。チェンバロが一番泣いたのはこれだと……二人がピアソラはバンドネオンで書いたが、チェンバロの音色を意識したんだと説得して……」
「そんなことあるんですか」
「ある訳ないじゃろう」
「あらら」
「さっきのバロックからいきなり現代、見事な演奏で3人で演奏しているとは思えない迫力」
「実力あってこそですね」
「さて、CD録音のための合宿までしたそうじゃが、それがワールドカップの時期で、水永さんは試合のいいところで先に寝ると言い出したそうじゃ」
「どうしてです」
「本人が言うには『私、野球知らないんですゥ』……大ウケじゃったな。座布団2枚」
「今日は音楽会でしょ」
「演奏は無事に進んで、最後の曲は映画音楽の『黒いオルフェ』。とにかく3人、いや3つの楽器の個性を見事に生かした編曲」
「ジャンルが色々ですね」
「そうじゃな、バロック、古典、現代、そして映画。CDもいいぞ。曲順までこだわっている」
「はい、いい演奏会でした」
「いや、アンコールがある」
「あ、まだあった」
ピアソラのお馴染み『ル・グラン・タンゴ』。これも旋律のやりとり、装飾音、見事な編曲で、最後の方でヴァイオリンが信じられないような音を出す」
「それは」
「CDにも入っているが、見事な雑音を弾くのじゃ。後半に聞こえるのこぎりのような音がそれ。一見の……いや、一聞の価値あり」
「はい、皆様もぜひ」

「演奏会の後、CDにサインをさせ、後片づけ中に記念撮影」
「そういえば上に写真が出ていましたね……大家さんが撮っていいんですか」
「記者と海外メディア、それに会場関係者……お客さんはみんな撮らないな……一緒に記念撮影というのは会場の人もしなかったし……」
「どうして大家さんが写っているんですか」
「ううん……まあ折角じゃから……」
「図々しいね」
「はい、今回は演奏会のご報告でございました」

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