10月6日 上野広小路亭

「今日は仕事に行ったが疲れがたまったのか、どうも調子がすぐれない」
「で、どうしました」
「仕方がない、仕事を切り上げて早退」
「ゆっくり休んで下さい」
「ということで、そのまま上野へ出て広小路亭へ」
「あらら」
「途中のお店でチケットをもらうと半額で入れる」
「せこいね」
「右は不忍池
「わあ、これはですか」
「季節ごとに変化するのは面白いぞ」
「はい」
「左は大道芸のソーヤー谷村さん」
「あれ……見覚えがありますね……」
「今年二度目かな。不忍池周辺で素晴らしい演奏をなさっている」
「で、今日の目的地へ参りましょう」
上野広小路亭……前座は三遊亭小曲で『牛ほめ』。最近家と牛が別の家だったが、こちらは一緒に解決。ま、明るくやってるからよし」
「顔付けに載っている人ですね。橘ノ圓満
「前座噺の『子ほめ』」
「今年は多く聞くネタですね」
「実は寄席で演じられる回数で堂々の一位。古くは昭和56年、新宿末廣亭で282回、調査期間不明の上野鈴本でも401回、2006年、全ての寄席で演じられた回数1位もこれ……因みに2位は『替り目

「へえ」
「今年は
真打の三遊亭歌奴が演じたのが印象的だた。その日は後で前座の物も聞いて、思わぬ聞き比べとなった」
「で、今日は二ツ目の『子ほめ』ですね」
「いや、実にいい。客が少ないのは寂しいな。今更だが、人物の描き分け、主人公と隠居、色黒の男に番頭さん、竹さんがそれぞれ生き生きとしている。とやはり前座とはこれだけ違うというのを見せつける芸じゃ」
「はい、良かったですね」
「さあ、帰ろう」
「大家さん、まだ始まったばかりですよ。瀧川鯉斗
「暴走族口調を何とかしないとな。もう少し落ち着いてほしい。出し物はお馴染み『芝居の喧嘩』。他のネタも聞いてみたいが……まだこれからかな」
鏡味健二郎
「お馴染みの太神楽
昔々亭慎太郎
「『転失気』。花屋などで聞くのも3種類のネタ全部入っていた。健二郎さんが少し短めにやって伸ばしたのかな……落ちがまた新しいもの。『どちらもつまみがいります』というもの。まだ色々工夫がなされている」
三遊亭笑遊
「『締め込み』。ちょっと台詞につまずく所があったな……人物がすごくいいし、泥棒も夫婦も明るくて、聞いていて楽しくなる」
松旭斎小天華
「お馴染みのマジック……お馴染みものばかりが続くが、熟練されている」
三遊亭金遊
「『真田小僧』。前半のだましのテクニックから、女房とのやりとり、後半へ……丁寧な作りを感じた」
「大家さんは今まではこの演者をあまりほめてはいませんでしたね」
「そうじゃな。でも、笑わせればいいというので完全に父親をバカにして嫌らしく見える演出が多いから、このくらいが自然なのだと思う」
「ここでお仲入り」
鹿の子師匠にお土産を持っていった。お酒じゃが、箱をつぶしてみっともないからって……瓶で渡したのはかえって失礼だったかな」
「大家さんだから、どうでもいいでしょう……仲入り後の食い付きがその春風亭鹿の子
「電車の化粧から入って、『動物園』。珍獣を出し、ブラックライオンとホワイトタイガーの対決へ……新しい部分が盛り沢山で、見事に進む……ただ、ホワイトタイガーで『こちらは本物』という台詞があるのが引っ掛かったかな」
「細かいのに引っ掛かるのが大家さんの悪い癖……東京丸・京太
漫才、芸人の伝記……ひどいな」
「え、ひどい」
「うん……人様に見せる芸じゃない。酔っぱらっているのかって雰囲気で、脱線して訳が分からなくなるのはいいと思うが、今日のネタ……ネタより脱線の仕方がデタラメ……金返せと言いたい」
「言いましたか」
「いや、言えないようにした客がいて……水筒の飲み物を持ってくるのはいいが、蓋のガチャガチャ、氷のカランカラン……それでネタを止めて注意をしたが、酔っぱらった脱線だとしか見えない。今日はそれだけ」
「客も悪いですか」
「まあね……これも客の方は悪いとは思っていないじゃろう。上野鈴本では若手の勉強会であるはずの『早朝寄席』でさえ、噺の最中にカンを空けるプシューなんか遠慮する人がいないし……」
「昔は飲み食いさえしなかったという会ですねえ」
「知らない人が来て勉強会ではなく、500円の娯楽場に変えてしまった。このお客様も、そういう鈴本に慣れている人なのかなあと思われる点が随所に見える。小さな席で遠慮が出来ないのじゃ」
「はい、神田松鯉
「さすが、しっかり落ち着いた雰囲気を作る。『忠臣蔵外伝』より天野屋利兵衛香炉の逸話。蔵干しで香炉がなくなり、そこに出入りしたのは主人匠守と一緒に来た利兵衛のみ。責任者である若い者が切腹するしかないのを、大石内蔵之助が利兵衛の元に行くが、利兵衛は自分が疑われているのを察し、それなら若い者の切腹を救おうと思い、自分が盗んだと申し出る」
「いい話ですね」
「そうかな……考えたら現実味に乏しいもので馬鹿馬鹿しいストーリーじゃが、語り口の良さがあるから生きるのじゃな」
「いい芸だったということですね。桂伸乃介
「『上野の釣り』。今日は明るくて良かったな……与太郎の『入れ物をくれェ』で落ちにしてよかったんじゃないかな……与太郎のその後の台詞までやって時間切れ的な結びがちょっと残念」
「はい、東京太ゆめ子
漫才で、今回は打ち合わせしたネタが、予定より受けないというのがおかしかった。わしがゆめ子師匠の元恋人ということがばれた一席」
「え……何ですそれは」
「客席の人だけが笑えるネタ」
「はい、トリは桂右團治
「『お見立て』。いつもいい調子で一気に畳みかけるのに、前半テンポがない。心配していたが、死を決意してからはトントンと進んだな」
「死を決意って……変な表現」
「はい、そういうことで、まあ物足りなさが沢山ありましたが、まあいいでしょうという会でございました」

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