10月10日 蜃気楼龍玉真打昇進披露興行

新宿夜席にやって来たのじゃが、ちょっと早めに入って昼席のトリ入船亭扇治を聞くことが出来た。出し物は『いただき猫』、これは浪曲からとって三遊亭円窓師匠が作り上げたものかな」
「はい、メインは夜席ですが」
「この日は蜃気楼龍玉真打昇進披露興行
「参りましょう」
「前座は鈴々舎やえ馬で『転失気』。最初からその正体を明らかにしているのはどうかな……やはり客も一緒に転失気って何だろうなって悩みながら聞くのが楽しいと思う」
「知っているんでしょう」
「知ってるから途中『食べちゃった』などで笑いも起こるのじゃが……興津要監修の『古典落語』でも、最初に正体を明かしている……疑問じゃなあ」
「はい、課題としましょう。ここから顔付けに名前の出ている人……まずは桂才紫
「『出張』、これは小咄じゃな。まあ、今日は後のために詰めてやらないと」
柳家紫文
「お馴染みの長谷川平蔵、三味線漫談じゃ」
柳家小んぶ
「二ツ目昇進、おめでとう。『野ざらし』。力が入っているかな、ちょっとにぎやかがやかましいという世界になってしまっている感じ。肩の力が抜けると良くなるじゃろう」
橘家蔵之助
「『ひょっとこそば』。落ち着きが欠けるな。あわただしいのが続いた印象。こういうお祝いの席にはふさわしいのかな」
昭和のいるこいる
「お馴染みの漫才
柳亭小燕枝
「『権助提灯』。旦那と権助のやりとりは面白いぞ」
五街道雲助
「『強情灸』。弟子の昇進ということで、何ともうれしそう……明るく楽しい一席だった」
アサダ二世
「いつものように怪しいマジック
金原亭伯楽
「『家見舞』。汚い噺ではあるが、ウンがつくように」
「本当ですか」
「とにかく上品に演じるといいのじゃ。時間も詰めてあっさり演ったのもよかった」
鈴々舎馬風
「他の噺家の悪口。この人ならではという一席じゃな」
「ここでお仲入り。もちろん、仲入り後は龍玉披露口上ですね」
「披露宴では遅刻王という話題がメインだったが、前の席でもうやったのじゃろう。今回はいい男だがルーズという程度……噺家の披露は笑えるな」
林家正蔵
「『煮豆』。これも小咄でさっさと下りた。こういう席だから十分じゃろう」
ロケット団
「お馴染みの漫才。とにかく少し短めに色々なネタへトントンと進むから、気持ちがいい」
三遊亭金馬
「膝を痛めたとかで、台を置いて『親子酒』。親父が飲む言い訳を並べるのがおかしい」
三遊亭円窓
「『十徳』。普通は数字が減って終わるが、途中で増やしたり、また減らしたり。色々目新しさを発見した」
鏡味仙三郎社中
仙三郎仙花ちゃんの二人。仙花ちゃんはしばらくぶり。今年初めてのお目見え。本職の太神楽だが、いやあ、うまくなっているな。手土産は用意しなかった。ごめん」
「色物の最初が長谷川平蔵、最後が寄席の吉右衛門ですか」
「あ、本当だ。面白い取り合わせになったな」
「さあ、トリの蜃気楼龍玉
「『子別れ』をたっぷり。番頭さんが夫婦を再会させるよう準備しているのが分かるが、それぎり番頭さんは登場しない。今までの演者は、全て本当に偶然なんだということでやっていた。これを番頭さんが狙って偶然を起こすというのは、三遊亭歌奴が演っている。後で熊さんが礼を言うシーンがある。それを龍玉はカット。しかし、仕種とちょっとした台詞で番頭の気持ちを伝えた。いいね」
「いいですか」
「親子の情も、夫婦の情も伝わる。昭和40年頃の本を読んでいたら、古臭い噺で演じ手が無くなっていくのではって書かれていたが、時代の古さを越えた、人間の情があるのじゃ」
「はい、そういうことで」
「大満足の一日でございました」

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