10月9日 夢丸独演会

「はい、本日は国立演芸場三笑亭夢丸師匠の独演会でございます」
「これは、毎年新作を発表する会ですね」
「そう、わしはとうとう次点までしか行けなかった。今年でおしまいという噂じゃから、残念じゃ」
「ともかく落語を聞きましょう」
「まずは夢花で『船徳』。テンポがいいな。演出でもところどころに省略があるが、それがテンポにつながったという印象」
「はい、良かったということですね」
「続いては夢丸師匠で、このシリーズの最初の受賞作『えんぜる』」
「江戸の噺なのに、タイトルが……」
「文明開花期に外国人の赤ん坊を拾ったという噺。CDも出ているが、さすがに慣れたもので、ドラマチックな展開も心情表現も、素晴らしい作品じゃな」
「もちろん、演じる人がいいからですよね」
「仲入り後は、松乃家扇鶴音曲。声は好かないが、三味線の腕は確かで……最後の吉原散策、時間繋ぎじゃが雰囲気を作るな」
「ということは、全体としては悪くない」
「ううん……そうなってしまうな」
さあ、そして、再び夢丸師匠ですね」
「今年の受賞作『拝み絵馬』」
「どんな作品でしょう」
「捨て子だった掏摸の捨松が、たまたま掏摸取った品に見覚えがあった。それを元に身元探しをするという作品」
「いい噺ですね」
「途中ですねた捨松が逃げてしまうなど、もう一つ物足りなさを感じさせる部分はあるが、まあいいじゃろう。正直地味な作品だが、夢丸師匠が演じたから聞かせてくれるという印象もあるな」
「これも演じてによって生かされるということでしょうか」
「そういうことで無事終演……しかし、この日は大変な土砂降り、わしは膝が悪く、車をよけようとしたら、歩道がすべるので転んでしまった」
「あ、もう駄目だな」
「いやはや、さんざんな目に遭ったというところを、落語会の内容の素晴らしさにほっとして帰ったということじゃ……いや、膝が悪いのに、膝を怪我してしまった」
「はい、それなのに、翌日にはまた出掛けるのでございます」

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