月12日 馬るこのごっつぁん亭

落語カフェで行われた馬るこのごっつぁん亭でございます……まだ大分遅れていますね」
鈴々舎馬るこの会。2003年入門のTENの一人じゃ」
「落語協会は10人が入門、一人の脱落者もなく来ています」
「行徳落語会の柳家ろべえ君なども同じ年じゃ。この年、芸協では桂夏丸ただ一人、円楽一門で三遊亭きつつきただ一人、立川流には一人もないのです」
「はい、しかし注目に値するメンバーばかりです」
「この馬るこの魅力は噺を自分に合わせてどんどん壊して行くこと」
「壊して……いいんですか」
ピカソの世界じゃな。基礎をしっかり身に付けて、そこからデフォルメを突き詰めて行く。そこに他の人とは違う自分だけの世界が構築されてくるのじゃ」
「難しいですね……もう少し易しく言って下さい」
「わしにもよく分からん」
「……いい加減だね」
「出し物はまず『六尺棒』。基礎をしっかりと。悪くないが、アクセントもない。これはまあ勉強中ということで」
「これから磨いて行くんですね」
「2席目は『京見物』。こちらは後半の祭りの違い、京男と江戸っ子の対比は面白い。その前、祭りにかかるまでの経緯がちょっと急ぎ過ぎた印象。やはり人物が分かりやすいので、むかついた気分が次第に溜まっていくのをじっくり描いて欲しい。でも悪くはない」
「はい、ここで、前座……え……」
「そう、鈴々舎やえ馬が登場して上方の言葉による『青菜』を披露。おからではなく、東京と同じメニューで演じたが……」
「さあ、次の一席は」
「鈴々舎やえ馬の『青菜』」
「え……大家さん、それはさっき終わりましたよ」
「いや、間違いではない。やえ馬が演じているのを、楽屋、あるいは解説者とアナウンサーの様に、馬ることゲストの志ん八が演じられている落語について話すという企画」
「へえ、面白いですね」
「わしは、『実況中継時蕎麦』という落語を書いたことがある。時蕎麦を演じている演者について紹介したり、花巻に卓袱というメニューの説明をしたり、時の数え方を説明したりするのじゃ……わしは気に入っているのじゃが、演じてくれる人が出ないな」
「はいはい……で、『青菜』の実況は」
「大失敗。これはやえ馬が、二人の話を無視して淡々と進めることが出来なかったのが原因じゃ。まあ仕方がないところ。怒るに怒れないしなあ……」
「実験としてはデータを手にしたというところですか」
「それで、中途で切り上げ、客席のリクエストで、馬るこが風呂に集まった婆さん達の落語を演じた」
「リクエスト落語ですか……すごいですね」
「これが何というタイトルにしたらいいか……風呂に集まるから『新浮世風呂』。しかし、婆さんの話す内容が、『浮世床』の夢と同じ内容。婆さんが若い男に見初められて……」
「男女が逆ですね」
「だから『新浮世床』とすべきか……悩むのでございます」
「はい、生涯悩んでいて下さい」
「仲入り後は古今亭志ん八、TENのメンバーじゃ」
「出し物は」
「これは珍しい『臆病源兵衛』。生まれて初めて聞く」
「珍品ですね」
「東大の本に上方噺として紹介されていたはずじゃな。それが荒唐無稽で、わざとらしくて、どうも現実味のない、下らない作品としか認識していなかった。ところが、臆病な人物も現実的だし、その後で脅すのもやりそうな悪戯。作品も見直した作品じゃ」
「はい、良かったですね」
「さあ、最後の一席。馬るこの『たらちね』。これはもうこのページでもお馴染み……というが、最初に認めたのが早朝寄席のこのネタ。その日、何と夏丸君の品格のある落語会にふらっと現れ、着物がないのでGパンに羽織だけ借り物で同じネタを繰り返した」
「大家さんに取っても思い出のネタになりましたね」
「とにかく、噺に出てくる大家さんがおかしい。最初は何のネタだろうと思っていると次第に明らかになる」
「最初に言っていた噺を壊しているということですか」
「そうじゃな。普通に演じられているものでは前半は付け足し。後半の言葉の丁寧な女性とのやりとりがメインで、前半はそのための準備に過ぎない作品だった。馬るこはその詰まらない説明部分を大いに笑えるように作り変えたのじゃ」
「なるほど、噺を壊すことでもっと良くなるというのが納得ですね」
「これは馬るこの最高傑作じゃな……わしの聞いた中では……」
「はい、上々の作品」
「ということで、失敗があっても、それが面白く、おまけの一作もついて、素晴らしい満足満足という会となりました」

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