8月9日 上野広小路亭

「さて、お盆前に寄席に行っておかないと……」
「別にそういう決まりはない」
「まずは右の写真、井泉……『いせん』と読むのがちょっと疑問なのじゃが……こちらは前の小さん(5)がカツサンドがお気に入りで、鈴本に来ると必ず前座に買いに行かせていたという」
「へえ」
「お店で食べるのがやはりおいしいのじゃが、今日は寄席でいただくことで、そのカツサンドを購入」
「はい、これが昼食でございます」
「ということで、本日はこれぎり」
「また……大家さん、寄席の報告でしょ」
「え……あ、そうか……食べる物を食べると安心しちゃって……」
「しょうがないね」
「息子も同じじゃ。プロ野球見物に行って、試合前にスタンドでおにぎりなどを食べ終えたら、『さ、帰ろうか』と言いやがった」
「親子ですねえ」
「前座は柳亭明楽の『たらちね』。土日は5,6人しかいなかったのに、今日は客がすごい数……びっくりしてビビッていたらしい」
「緊張していましたか」
「下手なのだから、緊張することないのになあ」
「ひどいね」
「もう一人、神田松之丞の『宮本武蔵伝』。講談では、武蔵は結婚していて、その舅の仇である佐々木厳流を追って旅をしているという設定」
「へえ」
「現実の武蔵は、女を近付けないように、風呂には一切入らず、着物も着替えなかったというのはご存知の通り」
「へえ」
「お話は、厳流が武蔵を待っているのに、武蔵が逃げ回っているという噂を聞いて、いよいよ決戦に向かうという場面」
「で、いかがでした」
「何が」
「何がじゃないでしょう。ストーリーじゃなくて、演じ方がどうかって」
「あ、まあ、前座じゃから……ただ、講談は口調の勉強だから、聞いていてひどいことはない」
「中途半端だね……ここから顔付けに名前の出ている人。春風亭べん橋
「『転失気』。ううん、分からないという説明、分かってからの話、ちょっとくどい部分があるな」
春風亭柳太
「出し物は『天狗裁き』。これもまだまだかな。せっかく友達、大家、奉行、天狗と相手が代わるのに、あまり調子が変わらない」
林家花
紙切り。リクエストに応えるようになった」
「前回は大家さんのリクエストと、奥さんの顔を切りましたね」
「そうじゃ。あの時は後の演者が間違えてヌキ。その分長々と演ったんで、紙が足りなくなって前座が買いに出た」
「今日は」
「季節物中心。試し切りをさせたが、なかなかよくなった。後は話がうまくならないとね」
春風亭柳太郎
「ここでひどい客が入って来た。しゃべりながら移動するわ、バサバサとプログラムは開くわ、入れ歯をはずしてくちゃくちゃ音を立てるわ……注意したが、全然感じていない……」
「そういうのがいると残念ですねえ」
「出し物はお馴染みの『カレー』。うん、やっといい感じに落ち着かせた」
三遊亭左圓馬
「『大山詣り』。いいねえ。演出が代わっていて、駕籠で抜いていて行った熊さんに気付いているという……ま、この方が筋は通っている」
Wモアモア
「お馴染みの漫才」
三笑亭夢太朗
「『たがや』。夏の風情を出していいねえ」
「食い付きは神田紅
「三遊亭圓朝作『乳房榎』。圓生が2時間で演じているのを20分で……ちょっと無理がある。コンパクトにまとめているが、人物の心理が略されているな」
ぴろき
「お馴染みのギタレレ漫談
山遊亭金太郎
「『青菜』。夏の暑さと涼しげな様子、長屋とお屋敷の対比……みんな同じ演出なのに、上手い人が演ると、その違いがくっきりと出るなあ」
三遊亭遊三
「お得意の『替り目』。俥屋とのやりとり、女房との会話、独り言、どれをとっても無理なく無駄なく。特に独り言は、そばに女房がいるのに話す。これが余り長いと嘘になるし、余りあっさりすると面白くない。難しい噺じゃなあ」
翁家喜楽
「お馴染みの太神楽。傘とバランス、水芸もうまくいった」
「さあ、トリは桂南なん
「『唐茄子屋』。前半は少しあっさりと、笑わせながら進み、後半人情噺になってからは展開を畳みかけるように……引き込まれたなあ」
「全体に悪い物はないようですが」
「そう。インパクトの強い物もなかったな。若手がもっと挑戦してほしいというところか」
「はい、これを持って報告を終わります」

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