7月24日 麦笑寄席
「土曜日も出勤したが、定時で逃げ出して、我孫子の麦笑寄席へ」
「前にも招待していただいていましたね」
「そう。3月だったが、ちょうど出張とぶつかっていたのじゃ」
「それで今回はちゃんと出掛けることが出来た」
「はい。これは山遊亭金太郎師匠の会。我孫子はなぜか、師匠と縁が深いのじゃ」
「なぜでしょうね」
「だから不思議なご縁と言うのじゃろうな」
「説明になっていないですがねえ」
「まず前座はくま八君。出し物は『転失気』。テンポがまだ乗らないし、人物が出て来ないし……」
「駄目ですか」
「いや、前座じゃから……明るい調子がいいのじゃ。まだこれから」
「はい」
「それで金太郎師匠の1席目。これが珍しい、『宇治の柴舟』を東京に移したもの……初めて聞いた」
「珍しい噺がまだあるんですねえ」
「当然題名も違っていないとおかしいな……聞き忘れちゃった」
「あらら……で、内容は」
「親子の情、番頭の主人思い、女とのやりとりのドラマ……いやあ、面白かった」
「もう満足ですか」
「そりゃあ……1席目でこのような人情味あふれる作をやられたら、降参するしかないじゃろう」
「確かに」
「続いて奇術の北見翼。まあまあ大きなネタをこんな小さな席でやるとは……見応えがあるのは、手際が良いということじゃな。わしもお手伝いさせていただいた」
「はい、上々といういことですね」
「さあ、仲入りをはさんで、金太郎師匠の2席目」
「1席目があれですから、2席目は何が出るんでしょう」
「今度は『帯久』」
「あら……」
「そう、これまた人情噺といっていい大きな噺……すごいなあ……大真面目に演られていたら疲れ切っていたじゃろう。色物がはさまったこと、それに前の噺で番頭の軽さが言いアクセントになっていた……見事な構成じゃ」
「構成は良かった……噺の中身は」
「中身が悪ければ、構成なんか意味はないじゃろう。和泉屋と帯屋の善悪の対比、奉行の裁きのテンポの良さ……全てがお見事」
「良かったですね」
「一つだけ引っ掛かるのは、この事件、明和年間にあった実話を元にしたものだといい、大阪西町奉行曲淵甲斐守が70歳になる婆さんに、20年後に金を受け取ってから死刑という判決を出したそうじゃ」
「へえ」
「それで、金太郎師匠はそのまま大阪を舞台に描いていたが……言葉は江戸言葉……引っ掛かるのはわしだけかも知れないが……宇治の噺を東京に移植したように、江戸の事件でいいのではないかな」
「はい、悩んで下さい」
「さて、素晴らしい席で満足して……」
「帰宅」
「いや、今日は家内の実家、調布で花火大会」
「あら」
「そのご報告は」
「例によってまた次のページで」