7月4日 三遊亭円楽講演会

「さて、日曜日、三遊亭円楽師匠の講演」
「どういう段取りで」
「お祝いの席なので、鏡味仙翁社中による獅子舞から始まった」
「いいですねえ」
「演芸の方は、前座に林家たい平
「え……何と贅沢な」
「しかし、客席が落ち付かない。老人ホームなどから来たお年寄りが席に着くのに時間が掛かるので……」
「仕方がないですねえ」
「それで、マクラとしてお馴染みの『幕の内弁当』を始めたが、中途で混乱。寄席での弁当が無くなっちゃった」
「あらら」
「それで『転失気』を演じたが、これも不思議な雰囲気で、おかしくもないところでドッと笑い声が上がるのじゃ」
「なぜでしょうねえ」
「分かっているが、お客様に失礼なので……要するにここは寄席ではないから……」
「仕方がないところですね」
「続いて先ほどの鏡味仙翁社中大神楽、これは見ていれば分かる」
「はい」
「それで、円楽師匠の登場じゃが……実はわしの義母がオレオレ詐欺に掛かった」
「え……」
「わしの息子の名を言い、仕事内容まで知っているようで、辻褄が合ったため、すっかりだまされた」
「とんでもないことで……」
「それで、銀行に行って現金を用意して来ると、もう受取人が来ているなど、後から考えれば矛盾がいくつかあったのに、その時は気付かなかった」
「そうですねえ」
「まあ、それに対する円楽師匠のコメント……お金よりも家族、孫が大切だという心を利用した卑劣な犯罪だ……しかし、犯人の側から見れば、人のつながりよりもお金が大切なのですね……」
「人のつながりって……」
「例えばお金を受け取りに来たのも、使いの者なのだろうか……それと真犯人とは金だけのつながり……銀行の出し子と呼ばれる人もそうなのじゃろう。家族とか、仕事の仲間とか、本来最も大切な人のつながりを捨てた人間なのじゃ……考えるとぞっとするな」
「はい」
「その違いが分かっただけでも、義母は良かったという結論になった」
「本当に大切なものは何かってことですねえ」
「それで、演芸じゃが、何と『勘定板』」
「あら……」
「『転失気』からこれじゃあ……本当の寄席なら、ドサ金への嫌がらせとも取れるが、まさか老人ホームの人がガタガタしていたのに対して選んだはずはないので……」
「聞かなかったんですか」
「純情なわしが聞けるか」
「どこが純情ですか」
「……ぜんぶ」
「……で、どうでした」
「品良く演じていたからいいか……立川談志が末廣亭でトリに登場。それこそドサ金が慌てて弁当をかっこみ始めたから、談志が怒ったね。『弁当食ってやがる……ヤダネ』って……この『ヤダネ』が流行ったのはその後数年経ってから……それで、『三人旅』を演るって予告した席だったのに、『勘定板』になった」
「あらあ」
三遊亭円生もこれを演じたが、二人は同じ演出……着物の裾を捲くると、それが引っかかって動き出して落ち」
「で、円楽師匠は」
「本物をやってしまった。ただし、落語協会の席でしばしば演じられるように、匂いや何かを描写することはなかった。掃除をしようとして動き出す落ち。最後まで品を失わないのは良かったな」
「はい、しかし、お祝いの席ではどうなんでしょう」
「まあ、実はそれにも意味はあるのじゃが、それはまたいずれ紹介しよう」
「すぐしないんですか」
「実は今の仕事とも密接に結びつくことなので……」
「もったいぶって……それほどの仕事をしていないでしょ」
「はい、またいずれご説明致します。右は後でいただいたお礼状。富山の消印でした」

inserted by FC2 system