6月12日 劇団四季「アイーダ」

「「さて、今日は劇団四季アイーダを鑑賞」
「こちらもご縁がありますね」
「そうじゃな、幾つか見ているが、正直な感想を言わせていただくと、あまり感心したことはない」
「あら、そうですか」
「今までは『ジーザースクライストスーパースター』がまあまあだったかな。しかし、これはキリスト最後の7日間を知っているという前提じゃから、どうも一般受けするものではないかも知れない。奇跡で民衆の支持を集めたキリストが、奇跡を封印したために罵られるという展開の面白さ。ウェッバーの音楽は面白いが、ドラマ自体が分からない」
「それが一番いい作品ですか」
「うん、例えば『風と共に去りぬ』という映画だって、時代と場所の背景がないと分からない。素晴らしい作品だとは思っても、本当には分からない」
「面白ければいいと思うんですがねえ」
「それも確かに……落語でも平気で間違ったことを言う演者がいるが、ほとんどの人には分からないからなあ……」
「そこを追及すると、娯楽ではなく古典芸能になってしまいますからね」
「さて、戦争の時代を描いた昭和三部作も同じこと。『異国の丘』も『李香蘭』も時代背景、歴史的知識がない人には……」
「難しいということですかねえ」
「山口淑子本人が来て、劇団員がみんな固くなったのは面白かった」
「どうでもいい話題」
「そんな中でも一番つまらなかったのは『ライオンキング』、人間のドラマがない」
「人間は出てこないって」
「筋書きが面白くないのかなあ……まあ、仲間の評判が一番いいのは『オペラ座の怪人』だったな。わしはまだ見ていない」
「はいはい、前置きが長い」
「さて、どうしてわしがのめり込めないのか、その謎が少しは解明できるのではないかと思って……」
「なぜ行くんですか」
「ううん……少なくとも3度は見ないと理解は出来ないということがひとつ。そんな中からいい所、悪い所を理解し、自分がそれをどう感じているか、そこまで理解できれば、見た意味が生じる」
「訳の分からない解説ですね」
「さあ、とにかく、ミュージカルというものの問題点を解明しよう」
「それほどのものじゃない」
「そういう訳で、今日は劇団四季のミュージカル『アイーダ』。粗筋など説明すると長くなるが、あまりに有名な歌劇と同じ……ということで、省略」
「はい、いきなり手抜きでございます」
「まず感じたのが、さすがはミュージカルで、歌劇とは違う面白さが必要ということじゃな」
「同じじゃ面白くありませんからね」
「そう。まずその面白さが良かった。
 ラダメスの父の親衛隊が近代的。『ウエストサイド物語』を思わせるちょっと危ない集団。上から見ると、それぞれの動き、決まった瞬間のポーズがなかなか良い。ファンは1階席の間近から見て、上の席から見て……まあ最低でも2回は見なければならない訳じゃ」
「はい、ファンは大変なのです」
「そういう内容は沢山あるが、中でも素晴らしかったのが、アムネリスの変化。王女として着飾ることしかない女で、中に出るファッションショーは『雨に唄えば』を思い出させる。そういうパロディ風な場面が沢山あった」
「面白いですね」
「その王女が、アイーダとの関係から王女としての自覚に目覚めて行く。父の王を抑えてアイーダラダメスの刑を決めて行く場面まで、実に見事に成長する」
「じゃあ、主役のアイーダは……」
「もちろん、アイーダラダメスの心の動きも描かれるが、アイーダからアムネリスへの心の表明がないのは片手落ちのように思われるな」
「ううん、残念ですね」
「さて、残念と感じる部分もある」
「はい、難点も指摘しますか」
「歌劇は生歌だから感動するのかも知れない。スピーカーから流れる歌、前半のラストでは気合が入ったのかハウリングを起こした。その前にも2回ほど軽く起こっていたが、リハーサルをしてこれが起ってはならないだろうな」
「でも今日は気合が入ったかも」
「かも知れない、後で泣いていた出演者もいたからな」
「はい、他には」
「歌劇では舞台と客席の間にオーケストラボックスがある。それを越えて歌が聞こえるのだからすごい。二期会のハイライトでも感動させる理由は一つにはその生の歌声がぶつかってくるからだろう。だから、最初に言ったように、一番前の席で生で聞くことが必要じゃ」
「スピーカーから聞こえる音では駄目ですか」
「それと、もう一つ不思議に思うのは、歌詞が日本語。なぜだろう。まあ、台詞で説明できないのがミュージカル。喧嘩をしていた二人が、一曲歌うと愛し合うようになっているなど、ミュージカルでは当然のことだ。そうなると、みんなが分かる台詞でないとならないのだろう。歌舞伎のようにイヤホンで説明を聞くのもねえ……歌舞伎で日本人向けのイヤホンガイドがあるのは呆れるが……それが許されるなら、ここでも言語で歌って日本語解説が別についてもいい」
「本当にいいですかねえ」
「要するに日本語とメロディがちぐはぐなのじゃ。時折間抜けに聞こえるのが興ざめだから、こういう結論になる」
「はい」
「まあ、もう一つ無理に付け足しになるが、ラダメスの父は王に毒を盛ってエジプトを我が物にしようとしている。息子と王女の結婚はその布石に過ぎない。これはラダメスが結婚に乗り気でない原因のひとつとなる」
「ドラマの設定がちゃんと出来ていますね」
「この父親がいい悪役である。渋くて、周りの親衛隊までいい悪の集団になる。しかし、この人の歌声はきれい。バリトン、バスなどの低い声でやってもらうといいと思うが、歌だけは息子と同じように感じる」
「若すぎるんですか」
「まあ、これはその方がいいかなってだけのこと」
「はい」
「王を逃がそうとするアイーダと、結婚式を利用されたと思ったラダメス……共に処刑されることでつながったのだろうが、アイーダからはちゃんとした弁明も心の表明もない」
「説明してほしかったんですか」
「もし、アイーダが無事に逃げられたら、ドラマとしては成立しないのだろうが、例えば、アイーダが殺されることが分かっていながら、自らの意志でここに残るというドラマでもあれば解消されるのだろう。二人の心にちょっとわだかまりが残った」
アイーダの気持ちって、最初にもそんなことを言ってましたね」
「そう、要するにアイーダは、ラダメスへの思いも、アムネリスへの気持ちも説明しないのじゃ。そこが難点といえば難点になるかな」
「説明したらくどくなりそうだしね」
「総合的に落ちも可。関係者と話をしていたので導入部を見損なったのじゃが、序に戻っていく仕掛けになっていて……まあ、ありきたりとはいえ、いい落ちじゃろう。ともかくこれまで見た劇団四季の作品よりははるかにいいと感じられる。十分に満足させてくれる作品じゃ」
「はい、9月で終演が決まっていますので、皆様もお早めに」

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