5月1日 芸協真打昇進披露興行 導入

「さあ、こうして、新真打の初めての寄席。披露興行が5月1日から始まります」
「はい、右にあるのは」
「新真打4人が並ぶ、今回のポスターでございます」
「はい」
「左から、三笑亭可龍師匠、春風亭鹿の子師匠、昔々亭慎太郎師匠、三笑亭傳枝師匠でございます」
「あ、前のページまでは鹿の子『ちゃん』だったのに『師匠』になった」
「そう、今日5月1日から本当に真打になったのじゃ」
「おめでとうございます……パチパチ……」
「このページをご覧の皆さん……おい、そこのあなた……そう、あなたですよ……拍手しなさい」
「大家さん、誰と話してるんですか」
「いや……別に……」
「それで、真打昇進披露と行くんですね」
「行ってやろうじゃないか」
「場所は」
「1日からは新宿末廣亭。1日から5日までは可龍師匠と鹿の子師匠、6日から10日までが慎太郎師匠、傳枝師匠が出演となっております」
「はい、皆様も是非お出掛け下さい」
「はい、左は鹿の子師匠個人のポスター」
「さっき言った通り、まずはこの人ってことですか」
「奇数日が鹿の子師匠、偶数日が可龍師匠がトリ」
「はい、では、前座から行きましょう」
「まずは桂歌丸師匠」
「え……何ですって」
「いや、その……実は昼席から入ることが出来るのじゃ。普段のわしなら当然昼席からたっぷり9時間堪能するところなのじゃが……実は体を壊して……」
「はい、惜しいところだったんですね……残念ながら復帰してしまいました」
「それで今回は夜席の真打昇進披露興行だけにした」
「それでは歌丸師匠は」
「昼席のトリ。早く着いたので入れてもらったのじゃ」
「はい、図々しいね」
「出し物は『質屋蔵』。これは若い頃の録音がCDになっているが、さすがは年の功、人物描写から物語の運びまで、素晴らしい」
「CDになった録音は、駄目ですか」
「うん。桂夏丸君が演じている方がはるかにいい。しかし、この日の歌丸師匠は、トリにふさわしい出来だった」
「良かったですね」
「ということで、本日はこれぎり」
「あれ、大家さん、終わりじゃないでしょう」
「え……でも、トリが終わったら寄席は終演じゃないか」
「……大家さん、報告するのは夜席の真打昇進披露興行でしょ」
「……あ、そうか……お前、また、話をそらして……」
「私じゃないって」
「前座は春風亭昇々で『初天神』。とても早いテンポ」
「どうしたんです、アガッていたんですかねえ」
「いやいや、今日は真打披露。前座が長くやってはいけないから、少しずつ余裕を持たせなければならない。そのための早さじゃ」
「へえ」
真打昇進興行では、新真打に義理がある人など、普段寄席に来ない人が来る。第1に、そういう人は、こうした演者を見て『アガッているんだろう』などと思ってしまう」
「はい、どうせ私ゃ素人ですよ」
「第2に、そうした人はテレビで知っている人ならしっかり見ようと思うが、他の人はどうでもいい。今回の夜席では、昇太小遊三のような笑点メンバーが出たりすると座り直して一生懸命聞いたりする……まあ、それは本当に落語や寄席に興味のない人だけじゃがな」
「大変ですね」
「こういうそういう客が多いから、演じる方も軽い噺で逃げてしまうことが多い。一般に真打昇進披露が面白くないのは、客に聞く気がないからなのじゃな」
「ふうん」
「お正月は顔見世という関係から、更に更に詰まらない訳じゃ。はい、寄席の問題を指摘したところで、本日はこれぎり」
「あらら……大家さん、また……まだ本題に入ったばかりじゃないですか」
「あ、そうか……お前、また、話をそらして……」
「そらしてないって……」
「しかし、本当に今日は話が長引いてしまったので……」
「え……まさか」
「はい、この続きはまた次のページで」

15:本番へ進む   表紙へ戻る   13:引き出物へ戻る

inserted by FC2 system