3月7日 上野広小路亭

「さて、今月もやって参りました、上野広小路亭
「行き付けの寄席でございます」
「今日の前座は山遊亭くま八。出し物は『牛ほめ』。テンポはいいかな。金閣寺が出るのは珍しいな。秋葉様のお札じゃないのも珍しい」
「珍しづくしですね」
「家をほめるのと、牛をほめるのが同じ家ではないというのも珍しい」
「普通の演出と違うということですね」
「もう一人神田松之丞。宮本武蔵伝から『山田真龍軒』。講談は勢いで聞かせるもの。テンポが勝負じゃな。まあ、悪くない」
「ほめてもいないね」
「それはもちりん……聞き込ませるものがないとね……」
「さあ、顔付けに出ている人。春風亭笑海
「『のっぺらぼう』。季節的にはちょっと早いが……最近よく聞くネタじゃな。どっから広まったのじゃろうか」
「出来は」
「ううん……悪くはない。もう一つ山場に欠けるかな」
「続いて桂夏丸君」
「デビューから注目している若手。今日は『樟脳玉』」
「変わったネタばかり演ってますね」
「うん。面白いのじゃが……」
「何かありますか」
「ネタがじっくり聞かせるものばかりじゃな。何だか老成しているようで……もっと若い力を出して欲しいなと思うこともある」
「難しいですね」
「そう。今のままでもいいことはいいのじゃ」
鏡味健二郎
「お馴染みの太神楽。最近傘がちょっと危ないな……ちょっと心配」
三遊亭遊馬
「『長屋の花見』。最初から明るい調子で進んでいく。気持ちがいい」
「いいですねえ。三遊亭笑遊
「出囃子が鳴るかと思ったらもう出て来た。何だか急いでいたが」
「が……どうなりました」
「『蛙茶番』をたっぷり。いやあ、ツボを心得ているなあ。とにかく笑える。メリハリの付け方も見事。前の遊馬から更に盛り上げる。すごいぞ」
林家今丸
「お馴染みの紙切り
「例によって大家さんが難しい注文を……」
「出した。『夜鷹蕎麦』。見事な作品はいずれ公開」
「中トリは桂圓枝
「例によって漫談風な『高齢化社会』。本人がボケ始めたのが余りにリアルで……笑っていられないな……わしの母親が痴呆症だったから、涙してしまった」
「はいはい。食い付きは……お目当ての神田蘭ちゃんですね」
「それが代演で笑福亭和光の『善哉公社』。ビルの中で歩き回るのが少ないようじゃ。まあ幾つかあるが、古い型じゃな」
Wモアモア
「お馴染みの漫才。今日はちょっと切れ味が不足」
桂伸之助
「『長短』。もう一つドラマが感じられない」
「何か不足ですか」
「いや……悪くない。この違和感はわしもよく分からない」
「しょうがないね……これじゃあプロにはなれないね。次は三遊亭小圓右
「『味噌蔵』。結婚からちゃんと……」
「前回の広小路亭ではここを省略していましたね」
遊之助だった。今日はオーソドックスな型で入った訳じゃ。人物描写もいいし、宴会がさらっと進んだが盛り上がりもあった」
松旭斎八重子&プラスワン
「お馴染みのマジック。手際がいいね」
「さあ、トリは桂小文治
「『替り目』。俥屋とのやりとり、それから夫婦の会話。オーソドックスであるが情が感じられる。いい雰囲気を作り出す。これが芸というものじゃな」
「はい。みんないいですね」
「しかし、インパクトのある作品が少なかったようにも感じられる。またの機会を楽しみに、ということかな」
「それでは皆様」
「また次回」

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