1月10日 歌劇「カルメン」二期会

「10日は落語会と音楽会がダブルブッキング」
「またですか」
「まあ、こういうことは仕方がない」
「どちらを選ぶんですか」
「それはもちろん、落語の方がつながりが深いから」
「当然落語を選択」
「いや、落語はいつでも行けるということで、音楽の方を選択した訳じゃ」
「前置きが長い」
「昨年の1月、日付も同じ10日に嘉目真木子さんと羽山晃生さんで『椿姫』、8月末には同じお二人で『蝶々夫人』、そして、今日は『カルメン』……ちょうど一年で三大オペラと呼ばれるものを全部見たことになる」
「すごいかも」
「右上の写真はカルメン役の谷口睦美さん(メゾ・ソプラノ)。昨年出光音楽賞を受賞」
「おめでとうございます」
カルメンのセクシーさ、激しい感情を見事に描いていた」
「さすがという役柄ですかねえ」
「出光音楽賞受賞記念に5百枚だけ作られたCD『ヴェネツィアの競艇』をいただいてきた」
「また、サインさせているな」
「写真左はドン・ホセ役の大川信行さん(テノール)。今回はサイン抜き」
「髭がもう後半の雰囲気ですね」
「このホセの転落が見事なドラマじゃ。第1幕では立派な兵隊さん。それがカルメンを逃がしたために捕らえられ、第2幕では釈放されてくるが、上司と対立してジプシーの仲間になってしまう」
「ストーリーは知ってます」
「いや、ここが重要なところ。カルメンとの愛を選んだというより、元に戻れなくなってしまうのじゃ。原作では密輸入をしているジプシー達のアジトを知った上司を殺すことになっている」
「そうなんですか」
「そして第3幕ではジプシーの仲間に落ちぶれていて、第4幕になるとそこからも追い出されて浮浪者同様に……どんどん落ちぶれて行くのだ」
「ドラマチックですね」
「イタリアかどこかの屋外ステージで、第4幕の出番を待っていたホセが警察官に連行されたという逸話も残っている」
「嘘のような話ですね」
「さて、右の写真はミカエラ役の嘉目真木子さん(ソプラノ)」
「はい、昨年は二つとも主演でした」
「今回は清楚な雰囲気でミカエラ役がぴったり」
「これはホセの恋人ですね……こんな人がいるのに、カルメンに迷っちゃうんですねえ」
「そう……まあ原作にはないキャラクターなのじゃがな。先に話した通り、ホセカルメンへの愛よりも上司との対立からジプシーの仲間になってしまう。第3幕が始まると、もうここは自分のいる世界ではないことが分かっている」
「でもミカエラの元へは戻れない」
「そうなのじゃ。そうなると支えはカルメンの愛情だけ……そういう悲劇に陥ってしまうのじゃ」
カルメンの方はどうなんです」
「彼女はジプシー女。一つの所で落ち着くことの出来ない宿命を持っているのじゃな。だから、精神的に落ち込んでいくホセを見て、第3幕ではすでに物足りなく思っている」
「でも、ホセがおちぶれる原因にもカルメンがいるんでしょう」
「だから離れることは出来ない。それで占いをすると死のカードが……作曲したビゼーが死んだ日、舞台で本当に死のカードが出たという有名な逸話があるね」
「色々逸話がありますねえ」
カルメンはそれもジプシー女の運命と受け入れる訳じゃよ」
「なるほど」
「今回の公演は、そういう二人の運命をよく説明していた」
「納得ということですね」
「初演の時は世の中から外れた犯罪者のジプシーを描くという批判もあって、不人気だったが、次第に人気が上がり、このシーズンだけで50回以上という記録を達成する」
「すごいんですか」
ビゼーの記録で大人気だった『真珠採り』が17回じゃから、すごいということが分かるじゃろう。その33回目の日にビゼーは死んでいる」
「じゃあ、ビゼーは『カルメン』が不人気だったんで死んじゃったというのは」
「全くの出鱈目ということじゃ。さて、左上の写真はこちらもお馴染みエスカミーリョ役の成田博之さん(バリトン)、1年振りじゃったが、向こうからわしを見付けて挨拶して下さった」
「はい、有難いこって……落語を捨てて来た甲斐がありますね」
The JADE(ジェイド)というグループで昨年CDを出されている」
「あ、もちろん、そのCDをいただいて……」
「当たり。『手紙』というCD。サインさせたぞ」
「図々しいね」
「右は伴奏……一人でオーケストラ全部をやっちゃうエレクトーン西岡奈津子さん。昨年『カルメン』をピアノ1台で演奏する編曲をされ、譜面発売中」
「色々やっていますね」
「わしはフルート用に編曲しているので……申し訳ない」
「じゃあ、サインはなし」
「いや……色紙を用意したので……ホセの大川さんがちょっと抜けられたが、他の4人の寄せ書きをいただいた」
「ううん……本当に図々しい」

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