11月13日 上野広小路亭

「さて、今日は久し振りに上野広小路亭へ」
「……先週も行ってますよ」
「あ……10日も間を空けて上野広小路亭へ……」
「適当だね」
「前座は春風亭吉好。今年9月に入ったばかりの子」
「子ですか……扱いが軽いね」
「前座はまだ人間じゃないから……夜ごと『人間になりてえよう』ってさまようのじゃ」
「何です、そりゃ……で、出し物は」
「『子ほめ』、前座としてはお馴染みの世界じゃ。出来も、可もなく不可もなく……前座としてはこんなものじゃな」
「ほめているのか、けなしているのか、分からないね」
「続いてもう一人、瀧川鯉ちゃで『転失気』。この人は前座の中程の人じゃが、前歴が何かあるのか……かなり堅い仕事をしているな。噺も上々じゃ」
「珍しく前座をほめています。さあ、これから顔付けに出ている人。まずは瀧川鯉斗
「滑舌の悪さを若さで引っ張って行く。出し物は『芝居の喧嘩』。こういう噺だから似合うので、まだまだということにしておこう」
春風亭笑松
「写真は右上。『浮世床』から夢。明るい高座でよかった」
春風亭美由紀
「お馴染みの俗曲。ちょいと挨拶をして遅れて入ったら、顔を見て笑顔を送ってくれた……それで歌詞を間違えた」
「迷惑を掛けていますね」
「いい男の宿命じゃな」
「ないない」
「ともかく、明るい歌声と気遣いが良かったぞ」
桂竹丸
「ううん、久し振りじゃな。お馴染みの『西郷どん』。最近は『西郷隆盛』という題名で演じているようじゃ。テレビで人気の頃よりも落ち着いた雰囲気が出て来たな。いい高座じゃ」
三遊亭左遊
「『高砂や』。落ち着いた雰囲気はいいが、単調になりがち。眠くなる。まあ、寝かせるのはいい芸人さんなのじゃが……本来の落ちまで行ったぞ」
「代演でコントD51
「お婆さんじゃなく、普通の漫才風……掛け持ちで3つの寄席を回り、婆さんの扮装を起きっ放しにしているそうじゃ」
「はい、お婆さんの扮装は右の写真でございます」
「仲トリは春雨や雷蔵
「『猫久』。侍の説明が分からないからあまり演じられることがなくなったな。面白い噺なのになあ。落ちまできちんと、久し振りのような気がする」
「食いつきは代演で春風亭昇乃進。大家さんの評価では今一が多い新作派ですね」
「ネタに新鮮味がないのじゃ。しかし、今日は良かったな。口調もリズミカルで、テンポもあった。出し物が『善光寺由来』というのも珍しい」
桂平治師匠で何度か聞いていましたね」
「やはり聞き比べることで噺も味わいが出る」
「これも代演で宮田章司
「売り声。久し振りだったし、珍しい物も色々出て面白かった」
三遊亭笑遊
「写真左。次に出る遊三師匠が得意としている『替り目』。間がすごい。人物が考えたりとまどったり、その都度爆笑を生み出した」
「爆笑ですか」
「いやあ、久し振りじゃな、これぞ大爆笑という一席。なかなか体験出来ない素晴らしい高座じゃ」
「次は三遊亭遊三……この後じゃあ大変ですね」
「そう……いつもは夫婦のマクラがあって……まあ、今言った『替り目』がお得意なので夫婦のマクラも重要なのじゃ」
「今日は違うんですね」
「そう。挨拶程度の軽いマクラを振って、いきなり本筋に入った。それが何と『お若伊之助』」
「どういう噺です」
「詳しくは落語のページで。無理に別れさせられた二人が、逢い引きを重ね、お若が身重になる。それで間に入った鳶頭が呼ばれてお若のところと伊之助のところを行ったり来たり……この場面が笑いにつながり、同時に伊之助のアリバイが証明されてミステリーにもつながる」
「すごい噺ですね」
「短い時間なのにドラマチックに進んだ。まさに、前の笑遊師匠の大爆笑から雰囲気を変えて聞き手を引きつける。すごい技量じゃ」
「すごいのが二人続いたということですね」
「写真を持って行ったのに渡すのを忘れてしまった。また次のチャンスがあるじゃろう」
「はい。北見マキ
マジック。紐をお手伝い。これはネタを知っているが、そこは協力して戸惑って見せる」
「嫌な手伝いを頼んだね」
「後半は親指を縛ってマイクスタンドや輪を通す……これもお馴染みじゃが、こちらはさっぱり分からない」
「さあ、トリは三遊亭圓丸
「出し物は『いが栗』。今日はとにかく珍しい作品が重なるな。これは歌丸師匠が演じ、今は夏丸君など若手が演じている」
「で、どうでした」
「さすがに真打という一席。それも謎の僧を追いつめる場面では三味線が加わって芝居掛かり、太鼓で僧の最後を演じた」
「鳴り物入りですね」
「面白かった。太鼓のタイミングが難しかったようで……前座が謝っていたようじゃ。しかし、そこは圓丸師匠、問題にしなかった。ともかく面白い一席じゃった」
「はい、そういうことで」
「満足度の極めて高い一日でございました」

表紙へ戻る

inserted by FC2 system