11月2日 上野広小路亭

「さあ、そういう訳で、昨日は上野広小路亭へ」
「行きましたか」
「行きました。鈴本では猫八の披露で大入間違いない。こちらはそこそこ余裕。それ以上に、鈴本は舞台と客席が離れた世界。こちらは客席と一体化する世界じゃ」
「まずは前座、三遊亭小曲。9月に入門したばかりの新人。マクラはまあまあかな。家が狭いという小噺が違うのは、小遊三師匠の教えかな」
「で、ネタは」
「『桃太郎』。本筋に入ったら、うっかり忘れがちらほら。まだまだじゃな」
「はい、これからです」
「もう一人、瀧川鯉八で『牛ほめ』。こちらは逆に来年には二ツ目という、前座頭」
「じゃあ、いいですか」
「ううん……最近流行の力が入らない語り口。頼りない、情けないという口調が多いのじゃ。草食系というのがこれかな……未来が心配じゃ」
「様子を見て行きましょう。顔付けに出ているメンバーですが、入れ替えで神田京子から」
「桂文治の思い出話が笑わせてくれた。で、あっちこっち行って、歴史講談に入ろうとして、待てよ、時間が違うってんで……」
「混乱していますね」
「それで、時間が分かって『ジャンヌ・ダルク』にまとまった。講談は元気でいいな。今日はあまり臭い芸もなく、見ていて清々しかった」
「はい、写真は前週のらくごまつりでございます。続いては昔昔亭健太郎
「『元犬』。仕草に目新しい部分を多く発見。それがいかにも犬らしくていい」
一矢
「お馴染みの相撲漫談。この春には横綱が引退するって予言していたが、それが優勝しちゃった。これは周りがだらしなさすぎるって話。まあ、日本人が出てこないとねえ」
三遊亭遊喜
「これもマクラが面白かったが、本ネタは『時そば』。後のそば屋はお得意の方へ行きたいのに呼び止められたから手抜きをしているのかな……って、説得力のある演出」
桂歌助
「『粗忽の釘』。今日はお客さんの反応がすごくいい。みんな乗って来たという感じがあったな。前半を端折って、いきなり釘を打つが、それからは爆笑の連続。お見事」
ぴろき
「これもお馴染みのギタレレ漫談。大笑いするお姉さん、わしらオッサンのつっこみ、爆笑が続いて疲れたね」
「笑うと疲れるんですよ」
「そこで三笑亭可楽師匠の登場。落ち着いた雰囲気にさせてくれる」
「出し物は」
「え……今日は漫談でいいかって……まあいいんじゃないって雰囲気になって……墜落しそうな飛行機会社の裏話……イスラムの世界に持っていくかと思ったら、そうならず、世界に視野を向けるものだった」
「はい、いい芸だったということで、仲入り後は三笑亭可女次から」
「期待の若手。『初天神』。イヤなガキだが、本当に可愛い。憎々しいガキで演られると聞いていて不快になる。父親も嫌だ嫌だといいながら、やはり我が子が可愛いのじゃ」
「はい、続いては宮田陽・昇
「お馴染みの漫談。一番前にいたわしがネタにされ、お詫びにお金で解決なんてギャグになり……写真を渡したら、幾らだって言うから、さっきの慰謝料を含めて百万円で手を打った」
「しょうがないね……。続いては三遊亭左圓馬
「『笠碁』。喧嘩が子どもの喧嘩のようで……これまた最初から大笑い。家の前をうろうろする場面もくどくなく、落ちまで一気に……実にお見事。素晴らしいね」
「はい、三遊亭圓雀
「『狸賽』。これも引っ掛かる部分を全部カットして、一気に博打へ。すごいすごい」
林家今丸
紙切り。舞子さんから藤娘、虎……それから、わしのリクエストで『目黒の秋刀魚』」
「右がそれですね」
「弟子の花の作を加えて20枚になったから、展覧会でも開こうか……それにしても、わしのリクエストは毎回悩ませるようじゃ。2,3度角度を変えて……『どうしようか』ってつぶやき、途中で『難しいと無口になります』……目黒の景色を想像で入れて下さった」
「はい、素晴らしい作品ですねえ」
「最後に似顔。今回は美しい女性が大勢いたから、その中から……わしが余っている座布団を用意したが、評判良かったぞ」
「さて、それでトリは桂歌若
「客席がいい雰囲気で盛り上がっている。マクラをはぶいて『竹の水仙』へ。本来の形で演じた。軽めの新作がとってもいいが、こういう古典も素晴らしいな。宿の主人の人の良さ、毎日だらだらしていながら、さあ仕事となると別人のようになるが、本質は変わらないという甚五郎。そうした人物が描かれるから面白い」
「はい、素晴らしい出来でした」
「まあ、ともかく客席の雰囲気はいいし、高座との一体化もいいし、当然出来もいい。これだけ堪能できた席は久し振り」
「良かったですね」
「今日も行こうか」
「同じメンバーですね」
「って……今日は単身赴任している息子が帰っているから、一緒に出掛ける予定。残念ながら寄席は無理なのじゃ」
「あらら……まあ、皆様はぜひお出掛け下さい」

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