10月12日 秋の夜長の二ツ目噺

池袋演芸場で開催された『秋の夜長の二ツ目噺』、桂夏丸君から招待状が届いたのじゃ。それなら行かない訳には行かない」
「パソコンで、否定の連続って注意が出ていますよ」
「二重否定というありきたりの表現なのじゃがなあ」
「まあ、いいでしょう。それで出掛けたということですか」
「そういうこと。当然木戸銭以上の土産を持参」
「はいはい」
「これは二ツ目が、秋の落語を演じるという企画……実は、とんでもない理由で開催が決まったのじゃ」
「それは……」
「内緒」
「あらら」
「協会の恥を喋れるか」
「でも、恥になるってことを伝えていますよ」
「さて、開口一番は笑福亭羽光で『進化論』」
「また、都合が悪くなると人の話を聞いていない……聞いたのことのない題名ですね」
「普通の寄席なら許されない出し物じゃな」
「新作ですか」
「動物がある日突然人間に変身してしまうという……まあ『元犬』ではなく、『元色んな動物』ってやつ。まあ課題は色々」
「はい、前座ですから、これからこれから……顔付けにあるのは、雷門花助
「『さんま芝居』、しっかり鳴り物を入れて、本格に……若手の挑戦は気持ちがいいな」
「いいですね。橘ノ圓満
「『茶の湯』。この人は本当に二ツ目になってからがいい。一部の噺は教わった人のイメージが抜けていない部分が多いが、今日のは自分の物になっているという印象だったな。聞いたことのないくすぐりもあり、仲トリとして十分役割を果たした一席」
「はい、さあ、食いつきは桂夏丸
「『甲府い』。盛り上がりのない噺なのじゃが、今回は最初のちょっとしたくすぐりに笑ってくれ、客席がしっかり着いていったという印象」
「じゃあ、夏丸君よりも客が良かったみたいですよ」
「もちろん、演じる人がいいからじゃ。一席を終えて立ち上がり……」
「あ、踊りですか」
「いや、歌じゃ。今日は『啼くな小鳩よ』」
「……また、歌謡ショーですか」
「霊によって一番前に座った人と握手会も……」
「いらない、いらない」
「そういう訳で、まあ、盛り上がった」
「しょうがないね……次は宮田陽・昇
「お馴染みの漫才じゃが、歌謡ショーで盛り上がった雰囲気を受け取って、明るく勢いのあるものになっていた。いいつながりじゃな」
「はい、トリは笑福亭里光
「『八五郎坊主』。上方噺じゃが、これも工夫が見られるな。わしの子供時代、前の桂小南で聞いたのが原作。落ちが難しいので解説付きだったので印象がある。それから桂枝雀が分かるようにと改訂していたのが印象深い」
「歴史があるんですね」
里光君もちょっとした部分の新しさがすごい……これは知っている人にしか分からないが、初めて聞いても十分面白い噺じゃな」
「上出来ですね」
「落ちは枝雀が工夫したもの。さあ、こうして4人の二ツ目と前座に漫才……これで休憩10分を含めて2時間半……充実と満足を感じさせる席じゃった」
「はい、素晴らしいですね」
「そういうことで、若手を応援しましょう」

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