9月9日 石橋尚子 演奏会

「それは9月9日……2009年の末尾から、9が3つ重なった日の出来事じゃ」
「いきなりドラマチックですね」
「もう一つ9を加えて19時半から、渋谷で石橋尚子ちゃんのソロ・ライブが行われた」
「今日は演奏会ですか」
「しかし、大変なのは田舎者じゃから、勤務時間が終わって飛び出したものの、特急を使うほど生活に余裕は無い」
「貧乏一筋ウン十年」
「結局会場近くの駅に着いたのが、19時ちょうど」
「あと30分」
「まあ、無事間に合って……今日はディナーショーなので、食べながら聞けるという幸せ」
「お腹がすいているんですか」
「実は定時で帰るために、仕事を頑張って……帰ろうとしてびっくり」
「どうしたんです」
「弁当箱を鞄に入れようとしたら、重いのじゃ」
「え……食べていなかった」
「考えたら、そう……忙しくて食べる暇が無かった」
「帰るまで気が付かないんですか」
「全く……見た途端にお腹がすいて……」
「いよいよぼけてきたな……電車の中で食べたらどうです」
「いるんだよ……時間の無駄が無いってんで電車で食べている人が……実は帰りの電車でも、立ったままおにぎりを食べて、ぼろぼろこぼしている人がいた」
「で、大家さんも車内で食べた」
「品位だけが取柄のわしが、人前で飯が食えるか」
「……どなってもねえ……全然説得力はないし……」
「そういうことで、本日はこれぎり」
「また……ディナーショーですよ」
「あ……しょうがないな……話をそらすなよ」
「自分でやっているんでしょう」
「さて、メニューは『NAOスペシャル』。写真右手前が『若鶏と茄子のインドカレー風 パラタを添えて』。鶏肉が沢山入っていたな」
「卑しい大家さんだと知ってのサービスでしょう」
「左にあるのが『豆腐とキノコのハンバーグ アボカドディップ』豆腐らしさを残し、ソースとのからみも抜群」
「右奥は」
「『アボカドと舞茸のフリットとアンチョビビネグレットのサラダ』……ああ、初めて舌を噛まずに言えた」
「さっきから練習していた成果ですね」
「そして左奥がデザート『葡萄のジュレを添えたレアチーズ』。これらはみな、今尚子ちゃんがはまっている食材を追求したものじゃ」
「こだわりのメニューですね」
「ビールを飲みながら、これでヘルシーながら充分お腹もふくれて、満足満足……ということで、本日はこれぎり」
「また……大家さん、目的は食事ですか」
「他に何がある」
「きっぱり言うな。今日は演奏会でしょ」
「え……あ、そうか……また話をそらしたな」
「誰が……で、どうだったんです」
「場内はジャズが流れていたが、ふとラフマニノフのパガニーニラプソディが流れ始めた」
「また、ドラマチックにしようとしているな」
「彼女が登場しても音が消えない……これはもしかすると……と思ったら大当たり……まずは無伴奏でパガニーニの奇想曲第24番。流れていた曲の元になった作品じゃ」
「いきなり難曲ですね」
「それにドラマチック……テクニック重視とされる作曲家じゃが、内面の響きを感じる演奏。実はわしもフルートで演奏するが、どこへ行っても受ける」
「はい、どうでもいい」
「ここでピアノの中山ショパン博之さんが登場。パッヘルベルのカノンを元にしたMODEAのナンバー、それにアンダルーサを演奏。ここでオリジナル曲を発表」
「何というタイトルですか」
「まだ付けていないらしい」
「あらら」
「それからお馴染みのスコティッシュファンタジーへと続き、仲トリはラヴェルのツィガーヌ
「寄席じゃないから、仲トリじゃなくって、前半最後の曲でしょ」
「すごいテクニックと迫力。お見事」
「で、食いつきは」
「おいおい、寄席じゃないから食いつきなんて言うな。後半はチェロの谷口楽典さんを加えて、最初の曲はメンデルスゾーンのピアノ三重奏曲第1楽章。チェロもすごい、圧倒される演奏。メンデルスゾーンて、こんなにもドラマチックだったのか」
「すごいですね」
「続いて映画音楽。これもお馴染み『ローズ』と『ニューシネマパラダイス』。そして、『スペイン』、弦の激しい動き、目がくらむようなチェロのピチカートの連続、ヴァイオリンとチェロが見事に一つになって……歓声が上がるほどの出来」
「スペインはいつも情熱的ですね」
「さらにテクニックを駆使するモンティのチャルダッシュが続き、ここでまたオリジナル曲
「また曲名は無し」
「正解。そしてピアソラのリベルタンゴ。これもチェロでお馴染みじゃが、ヴァイオリンとの掛け合いを生かした見事な編曲」
「話を聞いただけでもすごいですねえ」
「拍手が鳴りやまないが、アンコールを用意していなかったそうじゃ……スペインをもう一度演奏してアンコールとした。ううん、前にも書いたが、弦の音の違いを生かし、時には力強く迫り、時には美しく奏でる。素晴らしい演奏家じゃ」
「はい、良かったですね」
「これでもう10時を回ったところ。我が家まで帰ると朝帰りとなった次第」
「それでも満足ということですか」
「いい演奏は聞く者を幸せにするな……家までの長い時間を幸せにさせてくれる。なお、追加でご報告しておきますが、客席にはMODEAのメンバーがそろっていて、手を振り合ったのでございます」
「どうでもいい報告」

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