7月5日 早朝寄席

「そういう訳で……」
「どういう訳……」
「本日は予定通り、上野へ」
「また、人の話を聞いてないね」
「まずは上野鈴本早朝寄席
「このところ問題の会ですね」
「そう……ところが……この日は様子がおかしい」
「え……何です」
「いつものように百人以上が入っているが、携帯は鳴らないし、騒いでいる人もいない……」
「あら……どうしちゃったんでしょう」
「何だか、噺を聞こうという雰囲気があって、最初から様子が違う」
「ううん……まさか、前のこのブログを読んだんでもないでしょうが……」
「さて、中身の方も、そのお陰かどうか、なかなか充実したものになった」
「では参りましょう」
「最初(はな)は柳亭市楽で『やかん』。どうも口調が一本調子な感じもあって、前半のやりとりは物足りない。講釈になってからは拍手が起こってもおかしくない出来。開演前の雰囲気、拍手がないこと……どうやら、客が大人しいらしいな」
「そういうことですか」
「本来の落ちが中途だなと思ったら、二段落ちが用意されていた。まあいいかなって出来」
「続いては柳家小権太
「『都々逸親子』。明るく進むからいいか……わしにとっては新しい都々逸も入っていたし、面白く聞けた。落ちは喧嘩の仲裁」
「3人目は鈴々舎馬るこ
「実は先日の黒門亭で、初めて納得した」
「今日はどうでした」
「大家が縁談を進めているが、一人でどんどん進む。これがくすぐり沢山でとにかくおかしい……どうも店子が断りそうだから、相手の女について話したくないという雰囲気が伝わってくる」
「何の出し物なんですか」
「謎が重なって行く……『持参金』とは明らかに違うし……どうも相手の女がいい女らしいのじゃ」
「あれ……何でしょう」
「そして、『実は言葉が丁寧』ってことで、ああ『たらちね』だと納得」
「すごい演出ですね」
「まあ、縁談が決まるまでは前置き、大家が女を連れてきてからが本番というのが普通のスタイル。それが半分以上大家とのやりとりで終わる……それが噺を壊して……いるのかも知れないが、本来の味わいは壊さないからいいのじゃろうな」
「すごいってことですか」
「これはかなり高い評価をして良いかも知れないな……これからの落語の一つの課題を突きつけたような作品じゃ。ぶち壊しとしても、見事なぶち壊しと言っておこう」
「さあ、トリは桂文ぶん
「来年3月に真打が決まった。張り切って『寝床』。こちらは古典を忠実に……一つ二つ大店の主人としては乱暴な気になる言葉がことばがあったが、上々かな。真打という自覚を持って精進してほしい」
「はい。そういうことで」
「珍しく、素晴らしい早朝寄席でした」
上野広小路亭へ続く」

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