6月21日 黒門亭

「さて、東京へ出たからには、予定がいっぱい」
「今日もですか」
早朝寄席を終え、これから神田明神まで歩いて、そちらの資料を見せてもらう予定だったが、とにかくすごい大雨」
「はい、昼間すごかったですね」
「例によって喘息が出て……どこかで雨宿りをしようかと……」
「どこへ行ったんです」
黒門亭へ」
「あらら……結局落語会のハシゴですか」
「そう。今日は『同期の桜』という、光る二ツ目の会。4年前に二ツ目になった同期のメンバーによる勉強会じゃ」
「午前中も二ツ目の勉強会ですね。同じ人数が登場するのに値段は倍、中で飲食は禁止……ともなれば、まともな客しか来ない」
「はあ、午前中の課題の一つがクリア」
「そして、もう一つ、40人で満席という、アットホームな雰囲気。ここなら未熟者でも許される……」
「ひどい言い方」
「まあ、それが決して未熟ではないことが分かる」
「はい、最初(はな)は古今亭菊六
「同期の中では実力ナンバーワンになってきたかな……NHKの新人コンクールに挑戦している……あんなテレビで真価が分かるとは思わないから、ぜひ落選してほしいものじゃ」
「ひどいね」
「彼の実力は、たかだか10分かそこらの高座で分かるものじゃない。ともかく、今日の一席は『欠伸指南』」
「前に早朝寄席でろべえ君が演っていましたね」
「同じ出所かな。それとも今はみんな同じ経緯なのかな……立川談志が、全体に流れる怠惰な雰囲気が、いかにも落語らしい世界になっているんだ……なんて言っていたが、決して怠惰ではない。江戸の意気があって、欠伸にもメリハリがあって、テンポも出る。素晴らしいぞ」
「はい。三遊亭時松……あれ、先週13日の勉強会に来ていましたよ」
「そう、今回は『三人無筆』、珍しい噺で、わしも昔本で読んだが、大分内容が違っている。弔問客をからかったりするのは、早朝寄席のような大きな所で演じたら受け付けなかったかも知れないな。2人の無筆者の対象がいいな。主人公であるはずの男がすっかり脇役になり、もう一人が中心に展開するのもおかしい。上々かな」
「ここでMCですか」
「すでに着替えた菊六君が司会で、残る3人へのインタビューという形式。ろべえ君が惚け役になってしまっておかしかった」
「内容は」
「このメンバーの成立、修行について、それから夏の会の宣伝」
「はい。そんなもんでしょう。仲入り後は鈴々舎馬るこ
「『真田小僧』を前半じっくりと父と子の会話を見せた。少しわざとらしさを感じるが、この小さな席なら表情から細かな仕草までじっくり見えるのだから可。ところが後半、夫婦の会話が立川談志と快楽亭ブラックの話になっていく……あれ、脱線かと思ったら、これがメイン。真田幸村の代わりに落語会で落ちへ向かう」
「じゃあ『真田小僧』じゃありませんね」
「『落語小僧』という所かな。早朝寄席の雰囲気ならいただけないかも知れないが、ここなら大いに笑える」
「さあ、トリは柳家ろべえ君」
「マクラで『スーパー千早』を演じた。以前聞いた時はたどたどしかったが、今日はすごくいいテンポで……口開けに師匠の台詞を引用、マクラ代わりにこの噺……これも早朝寄席ならいただけない演出だが、ここなら素晴らしい」
「場所柄ということですか」
「そう。自分の持ちネタを整理し、どんな席で、どんな客を相手にするかが勝負なのじゃ。『己を知り、敵を知り、地の利を知れ』というのはこれを言う」
「本当ですか。で、出し物は」
「先週と同じ『だくだく』。1週間でもっとテンポ良く進み、アッという間に盛り上げて、泥棒登場……踏み台を描くのを忘れたかな……前半同じような台詞が重なるので、このテンポがないといけないのじゃ」
「はい、上々ですね」
「4人が4人が個性があって良かった。ということで、大満足の会でございました」

12人のヴァイオリニスト演奏会へ    表紙へ戻る     早朝寄席へ戻る

inserted by FC2 system