6月21日 早朝寄席

「さて、今日は3ヶ月ぶりに上野の早朝寄席へ」
「こちらは、このところ苦情の多い会でした」
「その理由も今回解明出来た」
「はい、参りましょう。まずは金原亭小駒
「『鷺取り』。上方ではお馴染みの噺、前半の雀取りなど、普通にやればいいのに、なぜこんなにもわざとらしく演出するのだろう。鷺について、教わらずに取りに行くのも違和感は感じる。まあ、若手の勉強会だからいろいろやっていいのだろう。しかし、普通に演って聞かせる実力を持っているのだから、敢えて言う。過剰な演出は噺を壊すのではないだろうか」
「続いて柳家さん弥
「『強情灸』。全体には可とするか……しかし、やはり灸を据えてからは大袈裟すぎる」
月の家鏡太
「今日の中では一番落ち着いて見えたな。『代脈』。しかし、客がうろうろして、ビールを買って戻って来た。おいおい、それじゃあ普通の寄席だよ……早朝寄席がどうも雰囲気が悪いのは客層が代わったこと。昔は若手を育てよう、聞いてやろうという人が来たのに、今はとりあえず笑えればいい、一杯やって、何か食べてという、普通の寄席と変わりなくなった。これでは若手は育たないだろうな。普通の寄席でお酒を禁止しているのは新宿だけじゃが、この早朝寄席は飲食を禁止していいな」
「これは、以前から言っていたところですね」
「そう。菊之丞師匠が出ていて『妾馬』で客席をうならせた……って、客は3人しかいなかったが……いま、今日のような大雨でも空席はぱらぱら……実験や挑戦をする若手ももちろんいるが、客にそれを育ててやる意識はない。ただの小遣い稼ぎなら、やめた方がいいな」
「さて、トリは柳家喬の字
「『抜雀』。これは挑戦なのじゃろう。正直、まだまだ。会話が現代の若者で、客と話すときは職人言葉、客を客とも思わない罵倒……もっと磨かないとなあ。テンポも今一だったし、こなれていないのじゃろうな。部屋から飛び出した雀を見て、すぐに絵が抜け出したと悟るのも不自然じゃな」
「はい、課題満載……あれ、それで、この寄席が今一になったという、その原因は客だけですか」
「次の黒門亭で解決した。演じる側の責任ももちろんある」
「何です」
「この会も勉強会には違いないが、知り合いが中心に集まる10人20人の前で演じるようなやり方なのじゃ。100人もの客を前にして演じることが意識されていない。だから、訴えるものが届かない。客もそのレベルだから受ける。で、受ければその気になる。その気になったら、その演者は育たないぞ。どういう場で演じているのか、考えてやる必要があるな……正直、今回4人の落語を聞いて、笑った箇所無し、心を動かした箇所無し……要するに何も感動がなかった。他の客が笑って大拍手してくれたからいいじゃないかというのなら、それでいい。そういう会にだけ出ていればいいのだ。そういう方面で進むつもりなら、わしはこの早朝寄席には行かない」
「その方が演者にも迷惑が掛からなくていいでしょう」
「ちょっとグチになったが……お客さんが増えて来たのはいい。ただし、中身は……正直明治の頃田舎者が東京に集まって、落語としては歴史に残らないような珍芸だけで受けてしまったという時代と代わらない客層のように感じる」
「来ない方がいい」
「難しいなあ……さっき話した菊之丞の時にお客さんが3人という……3人が3人とも感動に震えるのが分かった……あれではもったいないしなあ……多ければいいというものでもない。お笑いファンでなく、落語好きな人が増えなければならない……多分、永遠に成立しない世界なのだろうな」
「悲観的になってしまいました」
「そういうことで、黒門亭へ進む」

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