6月7日 上野広小路亭

「さて、この日、久々の上野広小路亭へ」
「久々って……4月以来ですね」
「5月に1度も行かなかったので久々ということじゃな」
「で、いかがでした」
「いつものように15分前に入ったら、もう出囃子が鳴って、前座1号……」
「名前を出してやらないと可哀想ですよ」
桂宮治。前座ながら、実は30歳をとうに越えているという……」
「そんな人がいるんですか」
「人生は色々じゃ。出し物はバカの小噺から『金玉火鉢』を経て、『金明竹』まで」
「前座にしては随分大がかりなネタですね」
「年齢とこのネタ……何かミステリーを感じるな」
「そんな大袈裟なものじゃない」
「いいテンポで、最初の言い立てが良かった。わしの先導で拍手となった」
「はいはい」
「後はメリハリの張りの弱さが感じられるくらいかな……年齢が年齢だけに、頑張って行かないと」
「前座で長々と掛かってしまいました」
「続いて、もう一人前座、三遊亭小笑
「こちらは何度か登場していますね。頼りない感じの……」
「そう。こちらが声の調子がとにかく通るようにという感じで、いかにも前座的。出し物は『子ほめ』」
「これも前座らしいですね」
「そうじゃな。どっかで脱皮するかな……ただ、前座は色々制約もあるから、二ツ目になって化けた人がいくらもあるから、ここで評価はさけておこう」
「はい、ここから顔付けに載っている人ですね。まず瀧川鯉斗
「生い立ちから語ったマクラが面白かった。出し物は芸協では初めての『芝居の喧嘩』。まだこなれていないのかな。台詞回しが今一という感じじゃった」
「続いて三笑亭夢吉
「右は2月のひだまり寄席の様子」
「これは、『初天神』ですね」
「お前もだんだん通になってきたな。この日の出し物は『代書屋』。とにかく、客の性格が……明るくて、楽しくて……いかにも夢吉君らしくていい。代書屋も嫌味がなくていいな」
「さすがということですか」
「芸協では次の真打候補じゃな。鹿の子ちゃんと一緒かも知れない……祝儀が間に合うかしら……」
「はいはい。次は春風亭美由紀
「これは言うこと無し。三味線漫談
「こちらも不思議なご縁で、毎回お土産持参ですね」
「そうなっている。とにかく声がいいし、三味線ももちろん」
「はい。桂平治
「『羽織の遊び』。最近はあまり聞かないネタじゃな。円生が良かったが、説明的な台詞が多かったという印象がある……平治師匠のは素直に笑える」
「続いては三遊亭遊吉
「お得意の『化物使い』。これはもうお馴染みなので……」
「だんだん手抜きになってきたな……前座の方が詳しいですよ」
「いや……真打になると今更説明してもねえ……不出来ってことはないし……目新しいこともないけれど……」
「それ、ほめているんですか……宮田章司
売り声……季節柄、わしがいつもリクエストする朝顔売りから入ったので、今日はリクエストなし」
「はい、仲トリは桂伸治
「『青菜』。これも色々な演じ手で、色々な演出を見るが……いかにも古典の世界というのを、いい味で聞かせてくれる」
「説明がよく分かりません」
「だから、若手は面白くするのに色々工夫をする。それが時には空回りもする。そこそこの演じ手は、特に目新しい物を入れなくても十分面白く聞かせる」
「なるほどね」
「さすが仲トリという世界なのじゃ」
「さて、食いつきは昔昔亭桃之助
「これも、桃太郎師匠の縁から差し入れあり」
「はい、どうでもいい報告」
「『犬の目』を演じた。ちょっと暗い感じがあるのが気に掛かっていたが、今年になってからはいいバランスになっている。グルグルポワから落ちまで、いいテンポで続いた」
スティファニーマジックジェミーという予告だったが、登場したのはポロンちゃん」
ポロン……て、初登場ですね」
「十二単とか、チャイナ服とか……訳の分からないコスプレで登場する……今回初めてサイキッカーとして登場したのを見た……」
「訳の分からない解説」
「ううん……訳の分からない展開なのじゃが……怪しい雰囲気なのに、笑えてしまう……マジックはまあまあかな……」
桂幸丸
「夏丸君の師匠じゃ。今回は久し振りに『野口シカ物語』をたっぷり。流れのお客さんが増えてきて、その応対なども間に入り、なかなか見応えがあったぞ」
三遊亭円雀
「これもお馴染みの『浮世床』から将棋を少しと夢。これもお得意じゃから、文句なし」
翁家喜楽
「お馴染み大神楽。今日は傘から茶碗の噴水」
「さあ、トリは三遊亭笑遊
「この人もいいなあ……数年前までは何となく変質者というイメージしかなかった」
「それは失礼でしょう」
「本人もそれをネタにしていたのだから仕方がない……わしは気品だけが取り柄で……」
「え……」
「突っ込むな、自信が無くなるから……だから品格に欠けるのはいただけなかった」
「また、前置きが長いな」
笑遊師匠も、この所の本格的な芸がすごい。参っているのじゃ」
「本物ってことですねえ」
「はい、今日はこれまで」
「また、大家さん、ネタを紹介していませんよ」
「あ……また忘れちゃった……出し物は『締め込み』。泥棒の侵入、亭主の帰宅、女房の帰宅、それが微妙に絡み合う難しさ……それが実に見事。子供がいて、難しいことは分からないようだったが、ちょっとした部分で『子供に笑われちゃったよ』なんて台詞を入れて引きつけるのもさすが」
「べた褒めですね」
「ううん……それほど入れている人ではないのじゃが……以前は変質者に見えていたのに、最近、つぶらな瞳が案外可愛いなって気が付いて……そう考えるだけで気分が悪い」
「しょうがないね」
「まあ、とにかく上々の席でございました」
「はい、この後は」
「パズルショップ『torito』を経てろべえ・夏丸・仙花の勉強会へ。これは次のページでご報告致します」

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