5月24日 演劇集団池田塾「裸でスキップ」

「今月は演劇強化月間」
「はい、13日から、新宿の紀伊国屋ホール、池袋の東京芸術劇場とつづきましたが……」
「この日は、中野のザ・ポケット。テレビでお馴染みの池田定幸さん率いる劇団の公演」
「参りましょう」
「鈴木聡の『裸でスキップ』を、叶野喜和子さんの主演で」
「タイトルで期待しますね」
「このページは品格があるので有名なのじゃから、余計なことを言わないように」
「へへ」
「さて、テレビでは先生役しか記憶にない叶野さんが、酔っぱらうとお調子者で、男を誘って、それで後で記憶を失ってしまうという役柄」
「随分雰囲気が違いますね」
「彼女の勤める町工場の取引先が不渡りを出して、倒産の危機になるというのが大きな粗筋。詳しく書けないが……まあ台本はネットでも販売しているので、興味のある方はぜひ」
「はい」
「彼女はかなり腕のいいデザイナー。それが酔って、とてつもなく真面目な役人を家に連れ帰ってしまう。女の方はデザイナーとしての夢を持っていて、かなりの変わり者。一方男は現実的で全てに平均点という……暗転すると3ヶ月ほど経って物語が展開するが、なかなか面白い。その都度二人の関係が意外な展開をしているのじゃ」
「へえ」
「さて、その後酔って男を家に連れ帰るが、こいつが実はデザイン界の大物……つぶれそうな会社が、彼の会社に吸収されるようになる」
「色々な人間関係が生まれるんですね」
「さて、納得の行かないのはラストじゃな」
「何です」
「女はデザイナーとしての才能を認められ、飛躍を約束されるが、そこで、これまでの人間関係が崩れてしまうのじゃ。一方お役人の男はどんな人にでも普通の生活、普通の人間である部分があると言う。それが大切だというのじゃ」
「はい」
「で、彼女は夢をつかみながら、そういう大事な部分を失うことに対して、これからどうなるのか……デザイナーとして、普通の人間になってしまうのか……それとも、優れたデザイナーとして活躍し、裏をこの男が支えるのか……」
「分からないということですね」
「夢を求める女がそれをつかみながら、大切な物を失っている。他の同僚の女は、仕事を失いながらも愛をつかむ……その辺りの対比は面白いのじゃが……」
「中心になっている人がどうなるか、半端な終わり方ですね」
「だから、すごく寂しいエンディングになってしまった」
「はあ」
「同僚の女性の、あと二つの恋を救いとしているのかも知れないが、中心となる女性のラストは、そういう寂しさを感じさせるもの……通は余韻のある終わりと言うのだろうが、もう少しすっきりしたいな」
「難しい世界ですね」
「やはり最後に締めがないと、消化不良になってしまうな。タイトルは、最後にみんなが裸でスキップをするのじゃが、それが要するに鬱憤晴らしに終わってしまっているような気がしてならない……これもむなしい」
「はい。そうすると、この作品は……」
「まあ、ストーリーの不満はあるものの、個性豊かな人物描写、一人ひとりの演技がよく光っていた。悪くはないのじゃ」
「まあ満足ということにしておきますか」
「はい、出演は他に、もろいくやさん、久万玲子さん、田中貴裕君など……わしの行ったのが楽でございました」
「さあ、演劇月間、週末も予定が……」
「今度は浜松町……主演の方からご招待をいただいたのじゃが、残念ながらどうしても本業の方が休めないので……」
「あらら」
「申し訳ない。これで今月はおしまい。来月は日本の伝統芸能にスポットを当てるという企画で、落語その他、引き続き強化月間の後半戦と参ります」
「はい、またご報告いたします」

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