5月13日 演劇 「相思双愛」

「さて、近藤芳正さんがソロ活動でと話題のバンダラコンチャの初公演」
「期待の舞台ですね」
「そう。期待を裏切らない、素晴らしい舞台じゃったぞ」
「へえ」
「さて、これは原作が二つ、それぞれを二人が脚色し、二人が演出したという……」
「それで登場人物も」
「そう、舞台に登場する役者も男女それぞれ二人という、こだわりがあるな。昨日はテレビカメラも4台入って、客席に他の役者さんの姿も見えた」
「さて、舞台は」
「原作の一つは横光利一の『春は馬車に乗って』、これを倉持裕脚本、近藤芳正構成・演出で。作家である近藤さん演じる夫と、坂井真紀さん演ずる肺病で寝たきりの妻。これがいつもぶつかり合っている。死を覚悟している妻の姿に、わしは正岡子規を見た」
「どういうところです」
「動かぬ体で色々な思いを胸にして……それが『病床六尺』で描かれた世界と重なるのじゃ」
「へえ」
「そこで夫婦の愛情を確認することが出来る。榎木孝明さんが妻の兄としてちょっと登場」
「さて、もう一つは」
「重松清の『四十回のまばたき』を前川知大脚本、桑原裕子構成・演出で。うつ病が発展した冬眠する病気を持つ女・燿子を辺見えみりさんが演じる。これが妻を亡くした売れない翻訳家である男・圭司の家に転がり込んでくる。この亡くなった妻というのが、燿子の姉なのじゃ」
「なるほど」
「この圭司が、何と近藤さんの二役で」
「ええ、すごいですね」
「燿子は妊娠しているが、病気で男が欲しくなるので、相手は誰だか分からない。しかし、姉と一緒に自分を見て来た圭司なら、冬眠中の出産も何とかなる……」
「勝手ですね」
「しかし、圭司も、子供の父親の候補の一人なのじゃ」
「あらら」
「これに圭司が唯一売れた翻訳本の原作者……これを榎木さんが演じる。とにかく、作家は妻が男と逢った帰りに事故で死んだというので、妻を許せない。実は妹と関係したのも、それがきっかけで……回想シーンがうまく入って来る」
「複雑なドラマですね」
榎木さん演じる原作者も、妻を亡くして……実はその原作は妻が書き残した日記だったのじゃ……これを通して妻を理解した先輩なのじゃな」
「へえ」
「二つの全くかみ合わないドラマが交互に展開する。それに共通するのは妻の死なのじゃな。ぶつかり合いながら愛を確認する夫婦と、死んでから次第に理解を深めて行く夫……」
「死と夫婦の愛情ですか」
「そこに新しい命の誕生がからんでくる。最後の花が見事に受け継がれて、ドラマをまとめた」
「お見事ですね」
「上々という作品じゃな。紀伊国屋では17日まで」
「さて、劇は9時過ぎに終わったが、それから打上で、結局朝帰りになってしまった」
「来月にかけて演劇強化月間ですから……」
「そう、まだ一つ目、頑張って行こうじゃないか」

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