5月3日 彦坂眞一郎演奏会

「さて、今日は連休の初日」
「4月から息子が就職して、夫婦二人っきりの生活」
「飽き飽きしているでしょう」
「いや、新婚当時のようなラブラブじゃ……」
「……」
「……」
「……」
「ああ、怖かった」
「奥さんが後ろからのぞいていましたからねえ」
「本当のことを書くと殺されるからな」
「さて、二人っきりだったのが……どうしました」
「そう、連休で息子二人が帰って来た」
「にぎやかになりますね」
「昼を一緒に食べて……」
「またラーメンですか」
「いや、わし以外の3人が昨日ラーメンを食べたそうじゃ。そこで今日は華屋与兵衛という……」
「ああ、江戸前寿司を発明した人の名前ですね」
「そう……しかし、正直に言うとここの寿司は今一。うどんはまあまあ……しかし、今日はアンケート用紙に苦情を書いて来た」
「どういうことで」
「それはお店に失礼なので……まあ、行きつけの店じゃから……次には改善されているじゃろう」
「そうならいいんですがねえ」
「ということで、本日はこれまで」
「また……大家さん、今日のテーマは」
「あ、そうか……忘れちゃった」
「しょうがないね」
「それで、食事を終えてから演奏会へ」
彦坂眞一郎さんの演奏会ですね」
「……お前、何で知っているんだ」
「だって、ほら↑……タイトルにあるじゃないですか」
「あ、そうか……また忘れちゃった」
「いよいよ危ないですね」
「ともかく、サックスの彦坂さんの演奏会。写真はピアノの東井美佳さんとご一緒のもの。今回の演奏のテーマは親から子へ伝えたいもの……感動的なものがあった。人間の歴史を感じさせるな」
「そんな大袈裟なものなんですか」
「いいか、人間は何億年の歴史を受け継ぐ先祖がいて、初めて自分が生まれて来たのじゃ」
「そりゃそうですが……」
「だから愛し合った二人から生まれた子供が、また愛し合う相手を見つけて子供が生まれる。その繰り返しがあったからこそ、今の自分がいる。今いる人間全てがそういう人なのじゃ。かけがえのない人間じゃから、他人(ひと)の命を奪うことはもちろん、自分の命を絶つことも、あってはならないことなのじゃ」
「大家さんに真面目な話は似合わない」
「まあ、そういう歴史を一人ひとりが背負っているのじゃ。証明も出来るが、それはまたいずれ」
「証明ですか……じゃあ、またいずれを楽しみに」
「ともかく、今日の演奏はそのような気持ちを感じされるものじゃった。佐藤俊彦の『このかけがえのない日々へ』、一曲ごとのタイトルが子供への思いが伝わる。曲もそれを伝えるものじゃ」
「どういうタイトルですか」
「順に、『誕生〜子供の領分』『君からのプレゼント』『対立』『未来へ』という……まあ、後は想像してください」
「さて、演奏は」
「もちろん素晴らしかった。みんな組曲だということを知っているのに、1曲終わると拍手をせずにはいらなれない。それほどの素晴らしさじゃ」
「はい、次の曲は」
長生淳、この人はサックス作品ではお馴染みじゃな。CDのタイトルにもなっている『VERS DEMAIN』という作品」
「何です」
「フランス語で『明日の方へ』という意味になる。この曲は『』『』『夕方』『』と時間帯を追って翌朝を描く『明日のほうへ』までが描かれていく。この曲はその創意に、さっき話した受け継がれて行く愛を感じさせるものじゃ」
「いいですね」
「さて、本日はミニコンサートなので、以上で演奏会は終了。アンコールでナシメントの『Travessia』を演奏した」
「短い演奏ですが、良かったのは分かりますね」
「さて、当然後でCDにサインさせ、ついでに記念撮影」
「図々しいね」
「いや、図々しければ演奏中から写真を撮らせてもらう。これでもかなり遠慮しておるのじゃぞ」
「考えのレベルが違う」
「それに、いい演奏でなければ写真だって撮ろうとは思わないじゃろう」
「それは一理ある」
「だから、わしと一緒に写真を撮るというのは、演奏家にとっては一つのステータスに」
「ならない、ならない」
「はい、本日はこれぎりでございます」

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