2月24日 お江戸日本橋亭

「さて、お江戸日本橋亭で、米福の会」
「忙しく出掛けていますね」
「まあ仕事が終わってから出掛けるので、遅刻。会場に入ったら、もう前座の春雨や風子が『牛ほめ』を演じている。仕方がないので、一番後で終わるのを待ったが……」
「何です」
「後から来た客が、話をしながら席を探して、前へどんどん行く……ここもマナーが悪くなったなあ」
「最近客のマナーにうるさいですね」
「本当は会場に入らないのじゃ。わしは5分くらい外で待っていたが、受付の人に勧められて中へは入った」
「まあ、せっかく演じているのに、前を通られるのは邪魔ですからね」
「そういうことで、終わってから前へ。前座二人目は三遊亭小笑
「ここでも何度も登場しましたね……情けない口調の……」
「そうそう……今日は『やかん』、講釈の場面で拍手をしてやったが、つっかえるところも多かった。まあ、これからの人じゃから……」
「では、顔付けに載っている人、まず春風亭笑好
「『短命』、テンポは悪くないが、盛り上げに欠けるような気がするな。最後はテンションを上げてほしい」
「今日の主役、桂米福の一席目」
「『宮戸川』。お花の台詞がかなり多かったのは珍しいな。可愛らしさを残したいい娘さんじゃ。苦情を言えば、伯父さんの家に着いてから戸を開けるまでが長すぎることくらい。まあ、わしはいつもこれが気になるのじゃが……」
「5分以上も戸を叩いているのは……ってんですね」
「そう。その間半七は『伯父さん、助けて』なんて言いながら戸を叩き続けているはず、近所迷惑じゃな」
「確かに」
「まあ、全体は良かった。お花の足がすっと見えて……そこから先は師匠に教えてもらえなかったという落ち。まあ、みんなキレ場はここなのじゃが、色々な切り方があるということじゃ」
春風亭小柳枝
「今日は大者二人が助演。軽く一席なんて言って『二番煎じ』……いや、いいドラマを見せてもらった」
「最近一番ほめている演者ですね」
「落ち着いてのめり込むことの出来る、大御所の中でもその雰囲気、噺の勢い、今ナンバーワンと言っていいじゃろう」
「ドラマってのは」
『火の用心』という声の違いは誰でもやること……面白かったのはその後の酒の飲み方、肉の食い方……それが最後の見回りの役人まで、みんな違っている。それを見ているだけで面白い」
「はい、これで仲入り……食い付きは桂平治
「今日は米助の二席で、最後に演じる噺がどんなストーリーかちょっと説明しておきます……って……」
「ええっ……」
「もちろんこれはギャグ。噺家さんの色々な癖から『長短』へ。この人は少しわざとらしさも感じることがあるが、二人の対照がマンガ的で面白い」
「わざとらしいって、良くないんでしょう」
「それは、その演者の人柄に合っているかどうかじゃろうな。芸協ではこの人くらいかな」
「はい。林家花
紙切りで、昨年9月から今丸師匠と一緒に高座を努めていたが、ようやく一人立ち。ただ切れるネタが限られているのじゃ。それを話でうまくつながないと……まだぎこちなさは残るが、かなり長い時間をしっかりつないだ。上達すると、切りながら話も出来るようになる」
「はい。当然、大家さんも作品をもらって来ましたか」
「もちりん。小手調べは師匠と同じ『舞妓さん』、それから干支、今年のとリクエストの。季節物で雛祭、縁起物は宝船、これは外国人の方が土産にもらって行った」
「外国人もいたんですか」
「最近多いぞ。わしは『歌丸師匠』をいただいた。最後にこれも師匠と同じ似顔で締めた。見られるようになったね」
「さあ、トリですね。米福の二席目」
「『付き馬』じゃ。客引きの場面では呼び込みの男の明るさ、軽さが何とも言えない。翌朝になるとこれが逆転して、客が飄々と店の男を連れ回す。無愛想な早桶屋の主人がいい彩りになっている。気を抜く場所もなく、実に面白かった」
「はい、素晴らしい席でした」

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