1月11日 早朝寄席

「今年最初の落語会は鈴本の早朝寄席
「恒例の寄席ですね」
「寄席ではない。若手の勉強会じゃ……」
「また何か引っかかっていますね」
「そう、5、6年前には、菊之丞のような人気者が出ていても客が30人くらい、天気が悪い時には3人という経験もしている」
「よく話題にしますね」
「それが、今日は立ち見も出る超満員……始まるまでヘッドフォンでシャカシャカ音を出している客。噺が始まっているのに広告を見ている客。午前中なのにいびきをかいて寝る客。飲み食いはいいというルールではあるが、10時からの席でテーブルに積むほどの食べ物を用意している客。勉強会ではない、普通の寄席のような感じ……来る目的が違う」
「昨年から繰り返し言っている、客のレベル低下ですか」
「残念ながら……普通の寄席なら初めての客も許せるが、勉強会は若い者を育ててやるための意識が必要じゃ。最近それが欠けているのじゃ」
「仕方がないでしょう……普通の寄席の4分の1……いや、正月なら6分の1で入れるんですから……」
「逆に勉強会は高くした方がいいかも知れないな……そうすれば本当に意識のある客しか来ない」
「どちらがいいんでしょうか」
「問題提起をして、本日はこれまで」
「また……大家さん、内容を報告しないと……」
「そうか、忘れちゃった。まず古今亭志ん八の『初天神』。大人と子供の仕草の違いに見所あり」
「上出来ということですか」
「まあ、これなら合格」
「厳しいね」
「続いて林家きく麿の『お江戸八百八百長』、40歳になる噺家の噺なのじゃが、自分で『もう大人だな』という台詞に違和感」
「まあ、確かに40で大人を自覚するのは……」
「相撲界をネタに落語の世界に移し替えたもので、外国人ばかりの国技に対する皮肉も感じられる」
「上々ですか」
「まあ、勉強会じゃから……しかし、客は相撲のネタが出る度に大爆笑、そんなに笑う場面ではない所でも……あまり勉強にならないかな……」
「次へ行きましょう」
「三人目は春風亭一之輔で『加賀千代』。ストーリー的に説明不足が多すぎる。なぜそんなに借金が出来たのか、主人公が隠居になぜ愛されているのか……せっかく人物描写がしっかり出来ているのだから、その状態がきちんと描ければ素晴らしいものになる」
「はい、トリは」
古今亭駒治の『公園の新幹線』。受けるのは新幹線の描写……後半のストーリーから落ちまではバレバレ。まあ悪くはないが、ありきたりという印象も……」
「全体としても悪くないというところですか」
「いや、みんな短いネタで、時間が20分も早く終わったからアンコール」
「へ……落語会でアンコールは珍しいですね」
「新年にふさわしいという『不敬落語』……ちっともふさわしいと思わないが……正直に言えばこれもバレバレネタ」
「駄目ですか」
「いや、悪くはないと思う。とにかく勉強会ですから」
「すると今日の全体の評価は」
「かなりいいと思う。60点くらいつけてもいいかな」
「かなりいいのに点数は低い」
「会場は大爆笑だったが、わしは一箇所も笑っていない」
「何しに行っているんだか」
「若手が力を付けてくれることを祈って……今年最初の落語会のご報告でした」

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