12月14日 上野広小路亭

「さて、引き続き上野広小路亭へ」
「行きますね。この寄席も今年9回目ですよ」
「この寄席はこれが最終回になるじゃろうな」
先週と同じコースで、どちらも満員でしたが……」
「今週は雨ということもあり、ちょっと空席も目立ったな……でも、先週のぎゅうぎゅう詰めより席にも余裕があってよかった……ビールもゆっくり飲めたし」
「そちらの方が目的だったりしてね」
「今日も前座が二人、まず笑福亭羽光の『煮売屋』、これは東の旅の一部で、亡き桂小南が『二人旅』という題で演じていた。『七度狐』につなげたのも聞いたことがある。東京ではやりとりが前の金馬の『居酒屋』として知っている人も多いじゃろう」
「作品の説明ですね」
「まあ、前座じゃから……やりやすい噺でもあり、こんなものじゃろう」
いい加減な説明ですね」
「二人目は三遊亭小笑……前回随分伸びたと言ったな」
「芸じゃなくって髪の毛でした」
「今日はすっきりしていたぞ。何と出し物が『やかん』。挑戦だったのじゃろうな……こなれていない部分があって、言い間違いから混乱、後が分からなくなってしまった」
「駄目ですか」
「それを笑いにしているのが見事じゃ。例の頼りない口調が物知り先生には合わない感じもあるが……この臨機応変は上々かな」
「はい。では顔ぶれに載っている人に参りましょう。まず桂花丸
「『蚊相撲』。つぶされた蚊が人間の姿で現れるという作品……季節感が違うのに、なぜかすんなり入ってしまった」
三遊亭遊喜
「『幇間腹』。幇間の裏表の差が大きくて面白いし、最後の鍼がさっさと進んでいい感じじゃ……以前大阪の繁盛亭で、鍼を3本も刺し、その都度これでもかこれでもかとどぎつく演じられて閉口した……これで十分笑えるのじゃな」
「東京と上方の違いですかねえ」
「そうなのじゃろうな」
「次はコントD51
「まあお馴染みのお婆さんコントで『ようこそ変態』……じゃない、『先輩』じゃ」
三遊亭遊馬
「『時蕎麦』。後半のひどいお店の描写がおかしくって……つい長くなり、落ちまで行かなくなってしまった」
「あら、それも珍しいですね」
「面白いからいいのじゃろう」
三遊亭金遊
「『真田小僧』、久し振りに落ちまで行った。子供が可愛さを失わないのがいいなあ」
「はい、扇鶴
「お馴染みの三味線漫談じゃが、だるい……最近慣れたのが怖いが……」
「仲トリは桂南なん
「枕もなしに、いきなり夫婦の会話から入って『芝浜』。随分端折った。気になるのは時刻……鐘が一つ足りないと言うが、逆のはずだな……それから、夜明けの描写があったが、河岸に完全に遅刻してしまう」
「大家さんは、知っているから気になるんでしょう」
「そうじゃろうな。もう一つ、『夢じゃねえよ』『夢だよ』が混乱して逆になった……これはギャグになったが……まあ、前半を端折って、後半の夫婦の会話をじっくり聞かせる。ここはかなり感動的じゃった。トリとしてゆっくり演じるのを聞いてみたいな」
「はい、出来は良かったということですね」
「そう。仲入りの間に右團治師匠にご挨拶」
「はい、食いつきで桂右團治
「『子ほめ』じゃ」
「あら、前座噺ですね」
「そこは真打の演じるところで、ひと味違う。隣の客も他の人と違うと言っていたが、十人やれば十種類の作品になるんだということを教えておいた」
「色々あるんですか」
「状況によって言葉を変えるのはもちろんだし、落ちも色々……『一つとはお若く見える。どう見てもただでござます』だが、『どう見ても半分』……このほうが『一つ』とのつながりはいいな……円窓師匠の系統では和歌が落ちになる」
「へえ」
「そこまでの経緯も色々……まあ前座噺で、前座が演ると、誰が演ってもそう変わらないからな」
「続いては、マグナム小林
ヴァイオリン漫談。いつもの『暴れん坊将軍』で終わるかと思って、『アンコール』としようと思ったら、何と『アンコールにお答えして』ってんで『天国と地獄』。今日は途中で手拍子が鳴り出したり、すごい勢いの演奏だった。途中で息切れしてハァハァ言うのもいいギャグじゃな」
「進化していますね」
「若手は進化が早いな。まあ、それで完成したものが本物の芸に磨き上げられて行くのじゃ」
三遊亭右紋
「お馴染みの子供時代の思い出から、自然に『都々逸親子』へと導入した。うっかりして写真を一部忘れたので、また次回も土産持参でなければね」
三遊亭小円右
「『豆屋』。今年ろべえ君が取り上げているので、そこで説明したが、不思議な作品じゃな。後味も良くないのに、なぜ面白いのか……今日は演じ手の軽さが救いとなっているのを感じた」
ぴろき
ギタレレ漫談。今日はファンの人が来ていて、いちいち『ヒッヒッヒ』という笑いをやり、『明るく陽気に行きましょう』を重唱……本人達は楽しいだろうが、芸には邪魔じゃな。まあぴろきさんも気を遣って、『じゃあ皆さんでひっひっひをやりましょう』ってギャグにしたが……」
「色々ありますね。さて、トリは桂米多朗
「今日は『ちりとてちん』。最初の花丸が蚊の噺で、トリがこの作品……季節外れが面白いな……もっとも、米多朗は夏限定でないような噺としていた。品良くまとめ、いい作品になっていた」
「はい、すると、特に大きな問題もなく……」
「満足の行く一日でした」

表紙へ戻る     早朝寄席へ戻る

inserted by FC2 system