11月23日 新宿末廣亭昼席

「さて、10月の芸協らくごまつりで、江戸落語検定で優勝。各寄席の招待券をいただいた」
「はい」
「仕事が新宿での打合だったので、そのまま末廣亭へ」
「都合がいいですね」
「昼食もおごりだったので……使ったのは電車賃くらい」
「はいはい、ケチな大家さんらしいです」
「連休の中日だからと思ったが、立ち見も出るほどの大入。これは驚いたな」
「はい、中身はどうでした」
「前座は笑福亭羽光の『煮売屋』、前半のみ。東京では先代金馬が演った『居酒屋』と同じようなものじゃ」
「さて、プログラムに載っている人ですね。桂夏丸
「彼の応援が第一の目的。『課長の犬』を演じた。前半は客席が落ち着かない雰囲気だったが、夏丸君はすっかり落ち着いたな。課長の家に着いてからは、すっかり客の気をつかんでいた」
「はい、続いてコントD51
「お婆さんのコント、NHKの『ようこそ先輩』がネタになっていたので『ようこそ変態』だろうって言ってやったが……」
「ひどいね」
「まあ、いつもの通りの展開で、安心して見ていられるな」
桂歌蔵
「出番が代わって、後にいる三遊亭小円右から。『初天神』だが、時間が短いようで、最初の買い物まで。もっと聴きたいな」
桂米太朗
「『時そば』。こちらもいいテンポ。かなり時間が短いが、それだけ江戸ッ子らしさは出ていた」
江戸家まねき猫
「『枕草子』。いいネタじゃな」
「ここで本当は小円右のはずですが」
「代演で三遊亭遊馬。『やかん』を演じたが、さすが。テンポもいいし、嘘ばっかりというのが聴いていて楽しいな。テンポが悪いと聴いていられない」
林家今丸・花
紙切り。申し訳ないが、『紙切り』を切ってもらった」
「なぜ申し訳ないんです」
「いや、二人でやる関係で、色々予定があるのじゃ。その予定を狂わせて切っていただいたので……まだが限定品しか出来ないのじゃ」
「はあ、なるほど……続いては、三笑亭笑三
「お馴染みの『異母兄妹』、俗に『冬のソナタ』と呼ばれている。まあ、悪い訳がない」
桂歌春
「代演で柳家蝠丸。『紀州』じゃが、脱線が面白かった」
「脱線ですか」
「このネタはさっと演れば5分で終わる。間に小噺を入れるが、そこに演じ手独自のものが入ってほしいと思っている。蝠丸春風亭柳昇の焼き肉を入れていた」
「焼き肉って」
「焼き肉をやるときに、遅れてきた人が『牛肉持って来たよ』と言うので喜んでいたが、さて始める段になって肉を出せと言ったが何も持っていないという返事……暫くして雨が降り出して分かったのが、『牛肉持って来たよ』ではなく『急に曇って来たよ』だったという……まあ柳昇ファンなら良く知っている小噺じゃ」
「はい……余計な部分の方が解説が長い。次はWモアモア
「お馴染みの漫才
「そっけないね。仲トリは桂米丸
「『玄関の扉』、やっぱりうまいなあ……後でご挨拶に行って、夏丸君が演じていたことについて話したが、直接教えたのじゃそうじゃ」
「はい、食いつきは春風亭昇之進
「ご挨拶をしていたので遅れて入ったが、『取調室』。わざとらしさはあるが、演じる方が落ち着いて来たのでまあ良しとしよう」
ぴろき
「土産を持ってきたのに、代演で一矢
「写真を持参しなかった。お馴染みの相撲漫談
三笑亭可楽
「『イスラムの世界』かなと思ったら、酒が禁止されているという話題から『親子酒』へ。これもマクラで時間をとったからか、親父が飲む場面を端折って、いいテンポだったな」
「この間は寿輔が飲む場面をノーカットで演じましたね」
「そう。まあ臨機応変というのか、自在に演じることが出来るのじゃろうな」
春風亭小柳枝
「『粗忽長屋』。あわて者のマクラで、お馴染みの『ばか、お前の親父だ』って小噺を演った。誰でも演るが、客席がドッと湧いた。すごいなあ。なぜじゃろう。ともかくも、今一番乗っている噺家かも知れない」
「マクラで感動ですか」
「もちろん、ネタの方もいいに決まっている」
北見マキ
「代演でスティファニーマジックジェニー。例の怪しい似非外人じゃ」
「さあ、トリは桂幸丸
「『昭和歌謡史』。ネットで流れたことがあったし、テレビでも演じたと思う。いずれも、ちっとも笑えなかった」
「面白くない」
「うん……正直言って……」
「じゃあ、今日も」
「いや、それが……最初から最後まで笑い続け。客席も大爆笑が続いた」
「ええ……ネタが違うんですか」
「いや、同じじゃ……初めて聞いても笑えないのに、知っているけれども大爆笑」
「どうしたんでしょう」
「ナマの力じゃな。客席の雰囲気を作って行くから。昔の柳昇もそうだし、寿輔もテレビでは変質者のおっさんにしか見えないだろうし……そう、今日演じられた笑三の『異母兄妹』だって、テレビではちっとも面白くないじゃろうな」
「落語はナマですか」
「そういうこと。さて、休憩をはさんで、夜席に突入しよう」

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