11月13日 工藤重典演奏会

「今日は茨城県民の日
「大家さんの所はお休みですか」
「残念ながら……ただ、仕事は昼までで、その後飲み会があって……」
「飲んでばかりですね」
「心配なのは、15日も飲み会で……同窓会なのじゃが、前回は7時間にわたって飲み続けた」
「ひどいね」
「そんな訳で、本日はこれまで」
「またあ……大家さん、タイトルが……」
「あ、そうか……忘れちゃった。実は飲み会というよりも昼食という感覚でとらえていて、終わってから寄席に挨拶だけ行こうと思っていた」
「そしたら」
「そう、長くて……上野に着いたらもう終演の時間。そこで寄席は断念して、出版社の方へご挨拶」
「あら……全然違う世界ですね」
「まあ、酔い覚ましをしないとね」
「実は迷惑を掛けているんですね」
「そこで5冊ほど、本を紹介されて……」
「何です」
「またいずれ紹介しよう……そのうち3冊はサイン本」
「サインですか……今年は沢山手に入れていますね」
「44人(グループ)、その他に円朝祭り芸協らくごまつりもあったので、トータル180人……ただし重複あり」
「すごいですね……整理出来てますか」
「いや、これからじゃな。整理に忙しいので、本日はこれまで」
「あ、また……大家さん、今日のメインは……」
「あ、そうか……また忘れちゃった」
「しょうがないね」
「先月18日、銀座に行った時にまたまたCDを見つけて、工藤重典さんの作品を買ってしまった」
「これまた行き当たりばったりですか」
「すると、今日、演奏会があるからぜひって招待状をいただいたのじゃ」
「良かったですね」
「平日だったら厳しいが、そういう訳で、茨城県民の日だったから……」
「これまた良かった」
「CDはフランスのサロン風の楽曲を集めたもの。曲の合間に話もあって、フランスではフランスの作品が取り上げれることが少ないとか」
「へえ」
「まあ、それで、タイトルの『カルメン・幻想曲』についても話があった。ボルンという人の作品に元々フルートのための曲があって、よく演奏されている。今回のはサラサーテがヴァイオリンのために作ったもの。ボルンのは、わしもたまには取り上げるが、正直言ってあまり面白い曲ではないな」
「そうですか」
「フルートのテクニックにこだわってばかりでね……」
「それに対して、サラサーテのものは」
「同じじゃ」
「あら」
「ただ、誰でもすぐ分かる有名アリアを並べているから、親しみやすい。この20年くらいの間に急に耳にするようになったのは、その親しみやすさが一番の理由かな」
「はい」
アナスタシアが涼しげな顔で弾き切るのに恐れ入ったことがあるが、それをフルートで演奏するのじゃから、はっきり言って無茶苦茶な作品。ご本人も、こんな近くで聴かれるとボロが出てって仰っていた」
「はい、で、演奏は」
「そうじゃな。正直な感想、部屋の作りが悪いな」
「あら、演奏じゃないの」
「いや、だから、それに気を遣ってか、音の伸びがないな。テクニックは唖然とさせられるほどじゃが、音色という点では、もう一つじゃった」
「そうですか」
「後でサインをしていただきに行くと、向こうから、あなたもフルートをやっていますね、と来た」
「え」
「それで、先ほどの評価と、音楽性について……調子に乗ってエマニュエル・パユさんと遊んだ話なんかして……」
「図々しいね」
「まあ楽しかった」
「自分だけいい気持ちになっているな」
「しかし、サラサーテの作品をフルートで……さっき言った通り、無茶苦茶なのじゃ。それをやってしまうから、これは笑ってしまうしかない」
「笑うんですか」
「不思議じゃな。すごいって途中で拍手したり、歓声を上げたり……アナスタシア先生の場合は、ヴァイオリンでヴァイオリンの曲を演奏するから、終わると大歓声。しかし、フルートでこれを聴くと、もう驚嘆も感動も飛び越えてしまって、笑うしかないのじゃ」
「そんなものですかねえ」
「はい、本日はこれまで」

inserted by FC2 system