7月24日 お江戸日本橋亭

「かくて、昨日に続いてお江戸日本橋亭へ」
「毎日毎日、大変ですね」
「楽しみには大変だという感覚はないな」
「はい。それで、今日の出演者は」

「前座、春雨や雷太の『狸札』、狸がちょっと人間的すぎるかな……でも上々の出来じゃ」
「前座としては、ですか……あれ、昨日と同じ台詞ですよ」
「そう、昨日と同じネタ。すこし変えたところがあるが、それが狸と人間の関係をよく表していて面白かった」
「すると、次の人も……」
「そう、前座がもう一人、これも昨日と同じ瀧川鯉八。こちらは出し物を変えて『犬の目』。全体に淡々と進むが、医者が何とかなるだろうって、のんきに構えている雰囲気に通じて面白かったし、ちょっと挿入されるくすぐりも上々だったな」
「昨日はバロクソでしたよ」
「日によって出来不出来のあるのも、前座としては仕方のないところ。だから勉強を重ねることじゃ」
「はい、ここからプログラムに出ている人で、これも昨日と同じ橘ノ圓満。昨日はほめていましたが……」
「出し物は『孝行糖』、マクラの売り声が実に見事。それから孝行糖の売り声を教える男と、与太郎の対比、まあとにかく、素晴らしい。なぜこんなに良くなったのじゃろう。びっくりじゃ」
「すごいですね。次は春風亭昇乃進
「今日はこの人がメイン……色々あって、マクラを聴いているうちに寝てしまった」
「はい、お疲れ。仲トリは瀧川鯉昇
「今日のお目当て。『千早振る』を演じたが、この人のは……ううん、何じゃろう……どうして……」
「悪かったんですか」
「いや、どうしてここまで面白くなるのか……とにかくすごい世界を作ってしまう。このネタは前座も演じる……それがさすがにこの師匠ならでは……細かな部分にも聴いたこともないくすぐりが入ったり、お馴染みの展開でもそれが大笑いにつながったり……やはりこの人はすごい」
「やはり大物ですね。さて、食いつきは三笑亭夢花
「例によって、気品を疑うマクラから……少し気を遣ってほしいな……出し物は『化け物使い』。それに、主人の言葉遣いにも疑問」
「というのは」
「隠居なので、そこそこの年齢でもあるはず。それが、職人口調が出てきたり……職人ならまだいいが、やくざの調子になったり……その言葉について考える必要があるな。使用人などはよく描写している」
「はい、続いては林家今丸
紙切り。試し切りに『浴衣』、わしのリクエストで『大川の花火』(左の図)、後は『朝顔』、『御神輿』、最後にお馴染みの『似顔』。素晴らしい作品じゃ」
「さて、トリは春風亭昇乃進の2席目」
「『青菜』」
「あれ、昨日圓満さんが演っていましたね」
「そう。つい比べてしまうな」
「で、どうでした」
「仕草が違うという違和感が一つ。猪口で柳陰を飲む訳じゃが、口を開けて一気に放り込む。味わいが感じられないな。最初はなめるように……とまで行かなくとも味わいたい。後の熱燗も同じ。食べる仕草もちょっと物足りない。もう一つ物の違和感は、九郎判官義経という言葉が初めて出た場面で、『九郎判官』といえば『義経』って、昔はすぐ連想されたもので……って、そんな説明いらないだろう。言葉が分からないと思うのならマクラで説明しておけばいい」
「すると、出来は……」
「いや、違和感は以上。後はまあまあかな……女房が乱暴で良かった。最後に押入から飛び出して、頭クラクラ、汗ダクダクという雰囲気がよく出ていた。これなら訳分からなくなって台詞も間違えるじゃろう」
「すると、全体的な評価は」
「上々。まあ鯉昇師匠と今丸師匠で、大満足という席でした」

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