5月26日 お江戸日本橋亭

「朝4時40分の地震で起こされて……」
「どうしました」
「眠くてたまらないから、今日はお休み」
「あらら」
「そういう訳で、寄席へ……」
日本橋亭は今年初めてですね」
「そう。今日は春風亭柏枝の2席」
「では前座から」
「まずは三遊亭小笑で『小ほめ』……情けない調子は相変わらず……これが個性になるか、どうなるか……不思議な雰囲気が楽しみじゃな」
「続いては」
「もう一人、瀧川鯉斗で『動物園』。この人は口調がちょっとだらしない。どこかで化けないと……」
「さて、これからプログラムに載っている人ですね。春風亭べん橋
「初めてこの寄席に来た時に前座で出ていた。二ツ目になって大きく変化する人が多いのじゃが……」
「この点々は……何か物足りないという……」
「そうじゃな。『真田小僧』を演じたが、どういう人物なのか……まだ前座の噺を聞いているようで……今日の寄席は『癒しの落語会』となっているのじゃが、癒されない。ストレスが溜まるな」
「まだまだってことですか」
「本当に勉強が必要じゃ」
「洒落が分かるかな」
「その後踊りで『奴さん・姐さん』……裾の乱れは姐さんだったら大変じゃ……これも合いの手にあるとおり『まだまだ』じゃな」
「続いて春風亭柳太郎
「懐かしの柳昇師匠の『結婚式風景』を演った。ところどころの口調が柳昇調になる。マクラでの物真似はちっとも似ていないのに……まあ、これから自己流に磨くのじゃな」
「これもまだまだ」
「さて、メインの柏枝の1席目……写真右……今日は2席演じるのじゃ」
「はい、出し物は」
「『堀の内』。前日、当日朝の夫婦の会話から、最後の風呂の様子まで、テンポもいいし、品があるし……実にいい」
「ようやくほめ言葉が出ました」
「これぞ本物じゃな」
「仲トリは桂小南治
「『胴乱の幸助』。前半の喧嘩だけじゃが、登場する3人が実に個性的で……マンガ的な人物でありながら、存在感があるな。素晴らしい」
「仲入り後はうめ吉
三味線漫談……きれいな声だが、やはり三味線に負ける声の小ささが……お座敷で聞くといい雰囲気なのじゃろうなあ……」
「何か物足りないということですか」
「そうなるな。『木更津甚句』『品川甚句』『都々逸』『小唄』……最後に踊りで『なすとかぼちゃ』」
「よく覚えていますね」
「知ってる曲ばかりじゃから……踊りは、べん橋と比べると申し訳ないが、桁違いによかったぞ」
「さて、トリは柏枝の2席目」
「『不動坊』をたっぷり。縁談から風呂の情景、幽霊のでっち上げ……落ちへ行くまで全くスキなく進む。聴き応えのある一席……雇われた噺家は、柏枝の弟子で『柏治』……と書くのじゃろうか、『痴』の字なのか……いかにも軽い噺家でおかしかった。人物がしっかり描写されているのじゃな」
「はい。そうなると、前半物足りない部分もありましたが」
「全体では大満足という一日だったと言えるじゃろう。とにかく柏枝師匠の人物描写が素晴らしかった。9月には8代目柳橋を襲名する。行かなければならないかも知れんな」
「はい、それはまたその頃に」

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