4月1日 上野広小路亭

「さて、久々の寄席へ……」
「先月19日に行ってましたね」
「あれは落語会。寄席は久しぶり」
「それで、いかがでした」
「まあとにかく忙しい毎日で疲れている……」
「大家さんの体調じゃなくって、寄席ですよ」
「あ、そうか……まずは前座A
「名前なしですか」
「本当は小笑というが、甘やかすと癖になるから……」
「ならないと思いますよ」
「出し物は『転失気』。この人は子どもの情けない雰囲気がおかしい。ただ、この噺やいくつかの作品にあるような大人をやりこめる子どもとしては違和感も感じるな……まあ、これからを楽しみにしよう」
「続いては」
前座B。『かぼちゃ屋』。まあ良くできた噺だけに、テンポが大事じゃな。伯父さんと与太郎の会話にリズムがないように感じた」
「その後はプログラムに載っている人ですね。桂夏丸
「そう。例によって彼を応援に行った訳じゃ。出し物は何と『鹿政談』。お客さんが少ないのはもったいないなあ」
「平日じゃあ仕方がないでしょう」
「町人と奉行の口調など、なかなか良かった。これで貫禄が出れば言うことなし」
「まだ若いですから」
「そうじゃな」
「続いては三遊亭遊喜
「『不動坊』。人によって色々違う面白い噺じゃ。主人公である男と大家、幽霊をでっち上げようとする3人、それに落語家……それぞれの描写の違いが出る。なぜか唯一の女性の描写が全くないのがおかしい……主人公の想像だけなのじゃから……」
「不思議な噺ですね」
「とにかく、面白い噺じゃな。それが分かったということで」
松乃家扇鶴
「飲み過ぎで声が潰れたと言っていた。しょうがないねって……それなら三味線の曲弾きでも聞かせてほしい」
桂歌蔵
「『お見立て』。この噺も、客をどこまでだまそうとするのか、嘘に嘘が重なるという演出は、違和感を感じることもある」
「難しい噺のオンパレードですね」
「真打になってから少し見所も出てきたな」
「はい、三遊亭左圓馬
「お土産を持参しなくてすみません。急に行くことにしたもので……」
「私的に挨拶しないの」
「『長屋の花見』。連中の哀れさを出して、俳句で落ちにするという、師匠お馴染みの演出」
林家今丸
「お土産を持参しなくてすみません。急に行くことにしたもので……」
「私的に挨拶しないの」
「お馴染みの紙切り。わしの注文は『八百屋お七』。随分悩ませてしまった。どのシーンにするかで悩み、一度鋏を入れようとして止まり、結局寺子屋の場面に決定。半鐘の場面と限定したらよかったかな」
「半鐘の場も難しいでしょう」
「まあ、いずれにしても、今度お詫びにお土産を持っていこう」
「中トリは三遊亭夢太朗
「『猿後家』。猿の新しい洒落がいくつか入っていたな。落ちまで行かなかったが、面白かった……例によって夢太朗口調で行くのはすごいな」
「さて、食いつきは神田陽子
「『治助の出世』から発端。ううん……出世するきっかけは分かるが、もう一つドラマがないな」
北見伸
「代演でスティファニーの瞳ナナとココア。まあアイドル系マジックということで、色々やっているが、とにかく下手じゃな……ネタ丸見え……まあ、ほとんどのお客さんはマジックよりファッションなどを見ているからいいのか……まあ、可愛いから許す」
「いい加減な……柳亭楽輔
「『替り目』。芸術協会では必ず出るというくらい接する機会の多いネタ。酔っ払いがいい演者と、かみさんがいい演者と分類しているが、今日のは車屋がおかしかった」
「色々演出も変えるのでしょうね」
「そうじゃな。同じ人が演じても聞く度に違うものじゃ」
三遊亭圓雀
「『紙入れ』、得意として演っている。登場人物の描き方がいいね」
「東京ボーイズ」
「二人になって頑張っているね。ネタはお馴染みじゃが、安心して見ていられる」
「トリは古今亭寿輔
「何と、お馴染み派手派手の黄色い衣装で登場、いつもの通りボソボソと始まった……そして衝撃の告白が……」
「どうしたんです」
「なんと『文七元結』を演るという。芝居や落語のファンならご存知……『元結』は辞書などでも『もとゆい』と書いてありますが、『もっとい』と読まないと芝居にならないんで……これだけは『広辞苑』にも説明されておりません。ただ指摘しても、間違いではないんで……」
「言葉の説明はいいですから」
「とにかく、あの派手な着物でこの大ネタに挑戦するという、その意気から説明して、導入を端折って吉原を出るところから……圓生のレコードでは表の最後の名台詞からじゃ」
「今CDですから」
「そうじゃな。実に人物を見事に描き、ドラマとして作り上げた。わしゃ、妙ちきりんなネタしか聞いていなかったから、これはびっくりした」
「すると、上出来」
「うん、近来まれな感動を催した。もっと早く紹介すればよかったが、5日まで毎日これを演じるそうじゃ」
「あら、もう終わっちゃってる」

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