2月24日 上野鈴本演芸場昼席

早朝寄席に続いて鈴本の本席」
「はい……こちらは本席は久しぶりですね」
「岡山に行く前じゃから、丸3年ご無沙汰じゃ」
「大家さんは芸協の会員、こちらは落語協会ですから」
「まあ、大風で電車は止まる、看板は落ちる……そんな中で満席、立ち見まで出るとは……いやはや……殊勝な人が多いものじゃ」
「大家さんだって、1本で来られるのを、4本も乗り継いで来たんでしょう」
「さて、前座は柳家小ぞう。『金明竹』だったが、『金玉火鉢』がないのは落語協会で多いな」
「そういう特色があるんですか」
「まあ演じる時間など、色々な条件があるので一概に言い切る訳には行かないな」
「はい、ではプログラムに載っている人で、柳家ろべえ
早朝寄席に続いて2席目。『初天神』、子供が嫌なガキなのだが、可愛さが残っているので上々かな。芸協では『子供の心はまっちろなんだそうで』って言うが、前座の若い者が枕で使うと違和感を感じる。ろべえ君は『まっしろ』と言っていた。もちろん、江戸ッ子の台詞では『ち』になる」
「使い分けているってことでしょうか」
「枕など、地の部分は現代語でいいかも知れないな。年季の入った演者なら地での江戸弁も生き生きと感じられるから、これもよし」
「難しいですね」
「年季が入るってことが噺家には大切ということじゃ」
「次はマジック
アサダ二世が代演。例によって怪しい芸を……わしの隣に座った人がお手伝いに選ばれた。三重から新幹線で来て、これから茨城まで行くそうじゃ」
「大変ですね。続いては柳家甚語楼
「『嘘つき弥次郎』、最初から嘘と分かるものを本当らしく聞かせようというのではなく、楽しく話している。なかなかいいぞ」
「次は柳家喜多八師匠ですが、代演と予告されていますね」
柳家さん生で、お得意の『善哉公社』。公社の人物が同じパターンに感じるのは、それだけお役所仕事になっているということだね」
ひびきわたる
「煙管を使った音真似。お馴染みの芸じゃな」
柳亭燕路
「『悋気の独楽』、小僧が自分で独楽を出したのに、回してごらんと言われて時間外勤務を主張するのは違和感。しかしまあ、この小僧のキャラクターで聞かせる噺じゃな」
桂藤兵衛
「『子ほめ』、正直言って目新しさがないように感じた」
ホームラン
漫才じゃが、左のおっさん、わしより年下だってことが分かってショック。しかしうまく盛り上がって大爆笑になった。ちょうどこの夜爛漫のラジオ寄席に出演していたが、出来は桁違いに昼の方がよかった」
「はい、仲トリは古今亭菊丸
「『時蕎麦』。これから発売される来月号の『東京かわら版』にこのネタについて書かれている。そこで筆者が感じている違和感が強く表れているように感じた。日陰で育ったボーっとした奴が、1文ごまかしにすぐ気付くのに、時間は適当……店の屋号に『はずれ屋』とつけるのも……まあ、これから研究を重ねよう」
「では仲入り後は」
林家二楽紙切り。小手調べに『桃太郎』、わしのリクエストで『雛祭』、それから『鍾馗様』……つながりはいいが、季節感を考えないと……雛祭りの裏は後ろの小母さんがほしがったのでやってしまった。お隣の三重の人は、桃太郎をもらったお客さんが遠くから来たからって譲ってもらっていた」
「いい客席ですね」
「これが寄席の味じゃよ。今の正楽師匠には追っ掛けがいて、他の客は口をはさむことも出来ないが……まいいか」
「次は古今亭菊之丞
「待ってました。枕をかなりつめて『紙入れ』をじっくり。女の描写がいいから、3人が実に個性的に浮かび上がる」
柳亭市馬
「『転失気』、お客さんみんな知っているのか、借りに行く所で爆笑……やっぱり小僧と一緒になって『転失気って何だろう』って悩みながら聞かないとね」
「聞く方のマナーですか」
「そういうこと。市馬師匠は、やはり落ちを代えて来た。色々起こる人じゃな」
柳家紫文
「お馴染みの粋曲で長谷川平蔵をいくつか。残念ながら時間が短いな。ご挨拶して、本にサインをいただいた」
「はい、お土産ゲット」
「そうそう、お土産といえば、落語家ミッキー三味線ミニーが手に入るのは全国でこの寄席だけ。皆様もぜひどうぞ」
「さて、トリは柳家福治
「『禁酒番屋』。主になる侍と、脇になる侍がいるわけじゃが、この脇のキャラクターに発見あり。軽い感じの侍で、酔ったら歌でも歌うんじゃないかな」
「そんな演出をしたら」
「落語がぶちこわしじゃ。しかし、そこまで想像して人物を作り上げるのじゃろう。番屋に来る3人の描写もまあまあかな。ちょっと侍が酔っぱらい過ぎという感じを受けるが」
「そういうことで、1日終わりましたが」
早朝寄席も、この本席も大満足の1日でございました」
「さて、帰りの電車は大丈夫ですか」
「上野に着いたら1時12分発の中距離列車がまだ止まっていた」
「あら」
「乗り込んだらすぐに出発」
「ラッキーですね」
「この時間帯は成田行きやスーパーひたちなどが挟まっているから、6時過ぎに到着という計算だったのに、お陰で30分も早く着いた」
「良かったですね」
「普段の行いというのは、こういう時に結果として出るのじゃ」
「全日はひどかったのにね」
「何」
「いえ、何も……」
「ともかく全てに満足の一日でございました」

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