12月23日 早朝寄席

「いよいよ年末じゃな」
「はい、残りの日数も1桁になりましたね」
「そういう訳で、皆さん、よいお年を……本日はこれまで」
「ちょちょちょ、ちょっと待って下さい。今日は寄席の報告でしょ」
「あれ……そんなことになっていたのか」
「なっていますよ」
「上野鈴本の早朝寄席、二ツ目の勉強会じゃが、これも今年最後となった」
「はい」
「トップバッターは古今亭ちよりんちゃん。『饅頭こわい』じゃが、テンションが低いな」
「低いですか」
「盛り上がる山場がない。これが大きな欠点じゃ。まだまだ勉強不足ということじゃよ。まあ、今年二ツ目になったばかり……女性噺家は、どこかで何かを起こさないと行けない……菊千代右團治は独自の世界を作ったし、二ツ目だが鹿の子ちゃんも自分の世界を作り始めているぞ」
ちよりんちゃんはまだ自分の世界がない」
「そういうことじゃ」
「次の演者は」
鈴々舎風車で、出し物は『馬の田楽』、こちらはハイテンションで始まり、ガンガン進む」
「じゃあ、良かったんですね」
「いや、疲れた。ハイテンションのまま最後まで行かれると……」
「逆の問題ですか」
「それならちよりんちゃんの方が落ち着いて見えるのと、疲れないだけいいかも」
「さて、3人目は」
柳家初花。『御慶』だったが……」
「点々がついているのはどういうことです」
「まあ、簡単に言うと、ひどい」
「それはまたひどい言い方」
「今朝、テレビで小遊三師匠の『天災』を放映していた。ご存知の通り乱暴者をさとすというネタじゃが、上品さを失わないのがさすがじゃった」
「は……テレビはどうでも」
「いや、この上品さというのが重要なのじゃ。初花の演じた主人公は、あまりにも言葉が乱暴。たとえ職人にしても喧嘩の時に使う言葉じゃないか。乱暴にすれば江戸っ子だとでも言うのか、そんなひどい人間ではないはずじゃ。大家といえば親も同然というが、その大家に対しても喧嘩腰としか思えないようなひどい言葉。面と向かって『こんちくしょう』はないだろう」
「そうやって聞くと、確かにすごいですね」
「これだけは拍手が出来なかった。途中から後ろを向いたが……気付いたかな」
「大家さんもひどいことをしていますね」
「さて、トリは三遊亭歌彦。一年を締めくくるのにふさわしい『阿武松』」
「締め括りにふさわしい一席だったということですか」
「これぞ本物と言いたいね。
『宿屋の主人が錣山の家へ来た時に、表の掃除をしている弟子が相撲取りらしく、少し太い声で話をして、兄弟子はまたそれより太い声を出し、錣山はそれ以上太い声で、どっしりと関取らしい貫録を出さなくっちゃァいけません。ほんの少しの間に、三人出る相撲の調子で現して行かなきゃァなりません。』
 これは三遊亭圓生の言葉じゃが、これもきちんと演じている。それに身投げを考えた阿武松に対して、ここまで育ててくれた親への恩をさとす……『子別れ』だけは認めていたが、こういう人情に訴える噺は実にいいな。やはり贔屓にしてやろうか」
「贔屓じゃなかったんですか」
「二ツ目になってすぐに贔屓にしようと思ったが、失礼な行為があったので……まあ、それを解消するだけの素晴らしい高座じゃった」

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