12月22日 黒門亭 夜席

「今日はそんなはずじゃなかったのじゃが……」
「何がです」
「このところ忙しくて忙しくて……」
「まあずっと忙しいようですが」
「まず第1のアクシデントは、朝一番」
「どうしました」
「夕べ会社の忘年会で、大酒コンクールでビール10杯を一気飲みしたから……」
「またひどいことを」
「それで朝起きられず、結局いつも朝に書き込んでいるブログもお休みで家を出た」
「はい」
「表へ出ると、第2のアクシデント」
「今度は何です」
「雨がモショモショ降っている」
「モショモショって何ですか」
「実は今日は会社で外での作業が予定されていた」
「あら」
「この雨では駄目だってんで、作業服などを置いて行こうと思ったが、わしの住んでいるのは高級マンション」
「え」
「ぼろアパートで、高い所なので戻るのはつらいから、面倒だが持っていった」
「しょうがないですね」
「さて、電車で会社へ向かうのじゃが、第3のアクシデント」
「何です」
「しばらく走ったら、地面が乾いている」
「え」
「という訳で、予定通り外での作業を開始」
「荷物置いて行かなくて良かったですね」
「本当じゃな。それで開始したら第4のアクシデント」
「……何となく分かります、雨でしょう」
「当たり。10時過ぎから降り出して、かなりひどくなったので、お昼で中止にした」
「まあ今日の天気なら、最初から中止でもおかしくなかったですね」
「それで、折角中止になったから……」
「何です、せっかくって」
「本来は5時まで掛かる予定だったので、早めに退勤出来ることになった」
「ははあ……それでタイトルにつながるんですね」
「当たり。黒門亭に行こうってことにした訳じゃ。しかし、何しろ田舎で、4時に会社を出ても、上野到着が5時32分」
「……黒門亭の夜席って……」
「そう。6時開始。上野から歩いて25分というところじゃが、まず上野改札を出るまでが大変じゃから……」
「遅刻したんですね」
「それが第5のアクシデント」
「どうしました」
「満員で札止めって張り出してある」
「あらあ……残念でした」
「まあ、折角来たから……半月前、7日にわしの企画で講演していただいた桂才賀師匠にご挨拶だけさせていただこうと、事務所をノックしたら、金八師匠がお出になって、才賀師匠を呼んで下さった」
「良かったですね」
「それで、才賀師匠のお陰で、満席なのにお膝送りをしていただき、無理に入れてもらっちゃった」
「あらら……これ第6のアクシデントですか」
「まあそれで、三遊亭あし歌の『宮戸川』が終わったら入れていただくってことで、廊下で聞いていた。ちょうど伯父さんの家に着いた辺りから……」
「姿が見えずに聞いているって……いかがでした」
「言い間違いがよく分かってしまうな……あら探しみたいになりそうだから省略」
「それで、中に入れていただいた訳ですね」
「そう。才賀師匠の登場じゃ。マクラでわしのことを振ってくれ、刑務所の話に移り……先日は少年院の話だったが、今回は刑務所……つながりを考えていただいたのかな……信用金庫の大型金庫が出来、その開け方を知っている支店長が点検のために中に入ったが、うっかり締めてしまった奴がいて……それで刑務所にいる金庫破りの名人がかり出されて……というお話し。珍しいものを聞かせていただいた」
「良かったですねえ」
「ここで仲入り……全体でもそれほどの長さでもないのじゃが……食いつきは林家のん平の『禁酒番屋』。古いネタを加えたもので、珍しかったな」
「そうですか……どういうネタです」
「それはメルマガでいずれ」
「ずるいね」
「さて、トリは柳亭市馬師匠。才賀師匠も市馬師匠も、わしが急に行けることになったため、手土産がいかにもあわてて手に入れた物って見え見えで……済みませんね」
「また私的に使ってる」
市馬師匠は『宿屋の富』。田舎者の客の雰囲気、その応対がいかにもおかしいってのがかみさんも気付いているおかしさ……籤が当たっていると分かった場面……これは録音では全く意味がない……まさに見ていなければ意味がないという演じ方で、生でなければ味わえないものじゃな」
「テレビなら」
「さあ……わしはテレビは信用しないから」
「信用ですか」
「ともかく、この客の描写が見事で、応対したかみさんが表へ出ると、主が帰ってくるという……これまた無駄なく見事な展開」
「すごいですね」
「まあ才賀師匠と市馬師匠が並んでいれば、満員は当たり前じゃろう。それだけ堪能出来た。お土産にカレンダーもいただいて……」
「おいおい……まあ、今年最後を締めくくった訳ですね」
「はい、実は本日も寄席巡りの計画がございます」
「あらら」

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