11月13日 上野広小路亭

「さて、昨日ちょいと仕事を遅くまでしていたせいか、朝どうも起きるのがかったるい」
「いつもだれていると思いましたが……」
「それで、息子と一緒に6時過ぎにのそのそ起き出した」
「あれ、いつも6時過ぎに家を出るんですよね」
「そう……もうどうしても遅刻だから、体調が悪いというのでお休みにして……」
上野広小路亭へ」
「なぜ分かる」
「タイトルに出てますもの」
「思わぬところからサボっているのがばれちゃった」
「しょうがないね……それで、前座は」
春雨や雷太。『饅頭恐い』だったが、まあまだまだこれから」
「はい、続いては昔昔亭桃之助。一昨日の約束通り、手土産を持って行った」
「落語は」
「『粗忽の釘』。荷物をかついで話す部分からたっぷり。いい出来だった。男の性格って……要するに粗忽者な訳だが、それが親しみやすいいい人物としてよく描かれていた」
「はい。続いては雷門花助
「『辰巳の辻占』。伯父さんとのやりとりから辻占、女との交渉……かなりいいと思うのじゃが、もう女との会話で二人の仲は終わっていると思うが、どうして心中まで行くのだろう……まだ、信じさせるものを残していなければならないと思う」
やなぎ南玉
「今月3回目……見事な曲独楽
桂歌若
「例によって39歳で独身という話から入って、『たらちね』。声もいいし、自作もいい……嫁さん世話してやろうか……昇太君もいるが……」
古今亭寿輔
「例によってやる気がないようなマクラがいい感じで受けちゃった。いつものダレでなくなっちゃうのがおかしかった。噺は『善哉公社』。団体で入っている人は知らないらしく、落ちに『おおーっ』って声が挙がっていた……なるほど、こうやって聞くのじゃな」
「知り過ぎているのも問題ですね。次は林家今丸
「はい、紙切りで、今日も切っていただきました。『駕籠屋』、何と乗っている女まで……とんでもなく手の込んだ作品。当然お土産、というよりお礼を渡さないといけない雰囲気だった」
「はい、仲トリは三遊亭円雀
「『転宅』、旦那がいる合図に盥(たらい)を出しておくというので、これを落ちにするかと思ったら、いつも通りの落ちだった」
「さて、お仲入り」
「団体さんが入って今日も満員、お膝送りってことは、日曜日より多かったのじゃな……どこから来たのじゃろう」
「大家さんと同じでサボってるんですかねえ……食いつきは神田紅
「ファンの人がいて、声を掛けていたが……」
「良くなかったですか」
「いや、今日は、本当に良かった」
「今日は本当に……ですか」
「そうじゃ。いつもちょっとわざとらしさや、余計な笑いを加えるのが……わしは講談としては要らないと思う」
「で、今日は」
「大高源吾と宝井其角の吾妻橋の出会い。余計な笑いはなく、実にいい。言い立てもあったし、これぞ講談じゃな……かけ声の『日本一』はほめすぎ……こっちが恥ずかしくなる……が、まあ、いつものおちゃらける部分がないだけ良かった」
「次は鏡味正二郎
太神楽。いつもの通り、手際よく……感情的にならない話し方が妙にいい雰囲気になるなあ」
「はい、三遊亭左圓馬
「へ、約束通り手土産を持って参りまして……つまらん物で済みません、へ……」
「また私的になってきたぞ」
「業務連絡ってんでそのお礼があって、出し物は『掛取り』から喧嘩。本来は金を払わずに領収書を取ってしまうのだから、後味が悪くなってしまうじゃろう。それが、テンポ良く進むし、明るい雰囲気を失わないし……いい感じで終わった」
「はい、桂歌春
「昔はわざとらしさが鼻についたが、最近は全く気にならなくなった。もっとも口調は変わっていないから、慣れた部分もあるのじゃろう。でも、確かに上手くなったな」
「出し物は」
「『紙入れ』。今日は子供がいないせいか、かなりきわどい部分もあった」
松旭斎小天華
「先日と同じマジック。しかし、手際の見事さ
は言うまでもない。上々じゃな」
「はい、トリも先日と同じ春風亭柳桜
「言うまでもなく、柳桜師匠は『不死身の落語家(はなしか)』、両足と手の指と、内蔵を幾つか失って……」
「そんなすごい人なんですか」
「本も出ているぞ。その指に今日は人工指が付いていない……おや、と思ったら、何と『鰻屋』。鰻をつかむところをしっかりと見せる……昨年4月に初めて見て……あまり手を使わない噺ばかりだったが、先日、今日と手の動きがすごい……何か悟りを開いたのじゃろうか」
「変化が見られたんですね」
「まあ、その感動に手土産を……」
「また私的挨拶ですか」
「お前が文句を言うから省略……まあ、そういうことで大満足な一日でした」

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