10月4日 上野広小路亭

「さて、今朝目覚ましが鳴らずに寝坊……起きたのは6時半だった」
「いつもは」
「5時起きで、6時半ならもう電車に乗るころ」
「で、どうしました」
「頭は痛いし、具合が悪いので欠勤ということにした」
「まあ時にはあり得ますねえ」
「そういう訳で、上野広小路亭へ」
「あらら……大丈夫なんですか」
「寄席はいいぞ。いい雰囲気で寝かしてくれる芸人さんがいて、ゆっくり寝ると、体調の悪いのも治ってしまう」
「寝てもいいんですか」
「当たり前、落語にはマクラが付き物でございます……お後がよろしいようで……」
「大家さん、終わっちゃダメですよ」
「あそうか……無事に落ちが付いたので、これから打ち上げを……」
「その寄席の報告をしないと」
「やっぱりそうなるかな」
「なります」
「前座は三遊亭小笑、まだ慣れないなあ。でもそれが初々しくって……出し物は『桃太郎』、緊張しているのかねえ……お爺さんが川に行っちゃったり……高座返しでも、手順を間違えてヒヤッとした」
「まあ、これからということで」
「もう一人、昔昔亭A太郎。『』を演じた。明るくて元気なのはいいが、どうも空回りが多い。まだこれからじゃが、悪くはないぞ」
「さて、これからプログラムに載っている人ですね。三笑亭可女治
「これも期待出来るぞ。古典で素晴らしく光るものを持っている……が、今日は新作。ラーメン屋のネタだが、どうも物足りなかったなあ……期待しているぞ」
神田京子講談
「最初抜けて、ぴろきさんに挨拶に行った。ゴメン。出し物は『秋色桜』、春風亭鹿の子ちゃんが落語にしているネタじゃよ」
「はい、それからぴろきギタレレ漫談
「CDをいただき、サインしてもらいました。舞台とそれ以外では違う人物……って、よくあることだが、それはあまり公にしないでおこう。とにかく、本当はすごい真面目な人」
「で、ネタは」
「お馴染みの自虐的なもの……しかし、今日は客の入りが3割と少ない…どうしたんじゃろう……」
「……大家さん、それって、平日だからじゃないんですか」
「え……わしが休んでいるのに平日なのか」
「大家さん、自分のことしか考えていないから」
「人をポケモンのように言うな」
「……ポケモンて何です」
「ほら、出てくる一番有名なモンスター……ジコチュウ」
「あれはピカチューです」
「ああ、チュウのお陰だ……ありがとうございます……」
「大家さん、勝手に落ちを付けて終わらせないの」
「あそうか……とにかく客は少ないし、乗りが悪い……ぴろきさんを知らないのかな……ポカンとしている人が多くて、わしだけが笑っていた」
「仕方がないところですね。次は桂米多朗
「『蟇の油』じゃ。さっきの雰囲気を解消するには、客席を盛り上げること……最初の言い立てで拍手を起こした……米多朗師匠の方がびっくりして、『初めてちゃんと言えた』って……酔っ払った後の仕草が色々面白いなって認識をした」
瀧川鯉昇
「落語では今日のお目当てじゃ。出し物は『武助馬』。すごいなあ。人物それぞれの気持ちが描写され、ドラマを感じる高座じゃ。何となくタラタラしている客席の雰囲気が明らかに変わった。すごい」
「続いてナイツ
漫才じゃな……『SMAP物語』。スマップというグループが人気だって、昨日気付いたので、それを紹介する……それがとんちんかんというネタ……まあ、こういうネタでは真価は測れません」
「仲トリは三笑亭夢太朗
「『転宅』、泥棒も女も、夢太朗口調になっているのがおかしい……それが自己の世界を作っているといえるのだろうな」
「はい、食いつきは三遊亭春馬
「『相撲風景』。声の調子もいいし、明るさも……ちょっとくどいネタがあったのはいただけない」
春風亭美由紀
俗曲、要するに三味線漫談じゃ。先日の浅草ではうめ吉の代演だったので何も用意していなかった。今日はおわびに手みやげを持って行った」
うめ吉さんも最近人気ですね」
「だが声が小さくてなあ……録音はいいが、寄席では声が三味線に負ける。お座敷芸にならなければいいのじゃが……さあ、次の演者へ行こう」
「大家さん、今日の演者は美由紀ちゃんですよ」
「あそうか、忘れちゃった……俗曲の替え歌など。声が大きくていいぞ。これぞ歌の芸と言いたいね」
神田松鯉講談
「河内山のお話……いい声をしている……講談はその程度の感想しか言えないレベルで、ゴメン」
三笑亭可楽
「この前に浅草で演って来たということで、向こうは馬鹿ばっかりだから、漫談でお茶を濁すとか……まあ、向こうで同じことを言っているかも知れないけれどね……『ちりとてちん』を演じた」
「よく演じられていますねえ」
「そうじゃな。今週からNHKのドラマも始まった。NHKでは上方落語の傑作で、東京にも『酢豆腐』という題で移植されているって説明しているが、東京の『酢豆腐』の方が原作なのじゃ。最近特に若い者が取り上げている。さすがは可楽師匠、若手の演出のわざとらしい部分を全部カットして、いかにも古典的な世界を構築していた。素晴らしいなあ」
翁家喜楽
「太神楽。傘とバランス、全部見事に決まった」
「さあ、トリは桂南なん
「『中村仲蔵』、見事なものじゃな……多少台詞を思い出す間があったが、それを忘れさせるドラマの盛り上がり、周囲の人々の人情……思わず涙ぐみそうになるほどの出来。いやあ、本当に堪能しました」
「はい、そういうことで」
「今度こそ、今日はこれぎりでございます」

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