9月16日 その3 浅草演芸ホール

「さて、東京から秋葉原でTXに乗り換えて浅草へ」
「忙しいことでしたが」
「TXでは1本乗り損ね、5時5分のに乗った」
「大家さんの紹介では、10分くらいには会場入りしろって言ってましたよね」
「まあ、余裕を持ってということじゃ」
「間に合ったんですか」
「直前のコントD51の半ば。満員で2階席といわれたが、折角応援に来たので前へ回ると、一番前の真ん中が空いていた」
「いい席ですね」
「椿席といってな」
「どういうことです」
「演者の唾が掛かる」
「汚いね」
「わしが一番前に入り込んだので、さっそくネタにされて、わしも応えてやって……」
「やってますねえ」
「さあ、そして、祝!二ツ目昇進、桂夏丸君」
「おめでとうございます」
「前回は土産を渡して置いたが、今回は突然の『待ってました』だったので、びっくりしたじゃろう」
「出し物は」
「鈴木みちお作『表札』、実は録音で大御所古今亭今輔の録音を持っておる」
「へえ」
「初演なのか、どうもこなれていない印象なのじゃ」
夏丸君と比べるのは酷かも知れませんが……」
「いや、わしは夏丸君の方がいいと思うぞ」
「へえ」
「時代のセンスじゃろうな。夏丸君の演じたものは現代に生きているのじゃ。それに、主人公は大学を卒業して4年、父親だって50代か……今輔師匠は録音時何歳だか分からないが、父親が年寄りすぎるな。古い録音を聞くと、面白いし素晴らしいが、やはり過去の物だと感じる」
「はい。続いては春風亭柳好
「楽屋にお土産を届けて、戻ると『浮世床』に入ったところ。『夢』じゃ。テンポもいいし、明るさがいい」
宮田章司
「お馴染みの売り声。薬売りなど、これまでに聞いていないネタもあった」
三遊亭左遊
「『蜘蛛駕籠』、昼間から結婚式で飲み続けていたので寝てしまった。ゴメン」
「失礼な」
「いや、眠れるのは幸せな雰囲気だからじゃよ」
三笑亭夢太朗
「『目黒の秋刀魚』。この人もゆったりと落ち着かせてくれる」
「って……つまり、寝た」
「当たり。すっかり酒が抜けた」
新山ひでや・やすこ
漫才、例によって夫婦でおちょくり合うもの。面白いなあ。客席をうまく巻き込んで行く」
「仲トリは三遊亭遊三
「『子ほめ』、仲トリの演じるネタではないなあ。子供がいたからかも知れない。前座の春風亭昇々君がこれしか知らないといっていたが、真打が演じるとこれほどになるという見本じゃ。前座、勉強せえよ」
「はい、ここでお仲入り」
「売店が閉まっていて、自販機のお茶を買っただけ」
「食いつきは桂幸丸
「客席が落ち着かないのを落ち着かせるのに5分……やはり実力者は、客席の雰囲気まで作って行くということが分かる」
「出し物は」
「『スパリゾートハワイアンズ物語』の序」
「また代わった作品で」
「あくまでも序じゃ。寄席だなという雰囲気に作り上げたというところじゃ」
東京ボーイズ
「いや、代演で宮田陽・昇漫才。4日の新宿と同じ、中国ネタ」
春雨や雷蔵
「これも代演の三笑亭茶楽、『教育落語を』というから、またかなと思ったら……やっぱり『紙入れ』、子供がいても平気だね。まあ、途中で『お嬢ちゃんには分からない』なんて入れていたが、じゃあ最初に違うのを選べよ」
「はいはい……次は昔昔亭桃太郎
「例によって軽い小噺から茶碗をけなして『結婚相談所』。人物2人、落ちまでしっかり演じたぞ」
北見マキ
「お馴染みのマジック。しかし、手際がいいなあ」
春風亭小柳枝
「『替り目』、仲トリの遊三師匠がお得意で、何度も聞いたが、やはり演じる人が変わると世界が転ずる。聞き比べのおもしろさじゃな」
檜山うめ吉
「これまた代演で、何と春風亭美由紀ちゃんの三味線漫談……すみませんね、知っていたらお土産を持って行ったんですが」
「トリは三遊亭圓輔
「『火焔太鼓』、喧嘩をする前半と、太鼓が売れた後の夫婦の会話が対照的で面白いなあ。それから用人とのやりとり……作品がしっかりしているといえばそれまでじゃが、実際演じられて詰まらないと感じることもある」
「何でしょうね」
「だから、人物描写じゃよ。普通にしゃべっても面白いのだから、そこで人物がどのような性格か、年齢は……そういうところをしっかり描写するのじゃ」
「はい、そういうことで」
「上々の席でございました」

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