6月7日 ライオン・キング

「ええ、今日は仕事をサボって……って、本当はこれが仕事なんだけど……劇団四季へ」
キャッツとかオペラ座の怪人とか……」
「そう、アンドリュー・ロイド=ウェッバーの作品をよく取り上げている」
「あんどるうって何ですか」
「発音が悪いな。作曲家の名前で、妹のジュリアンはチェリスト。兄の作品を演奏しているアルバムはなかなかの作品じゃ。わしは『パガニーニの主題によるスーパー・ヴァリエーション』で初めて本格的に認識した」
「作曲家については、まいいか。それで、今日のお仕事は」
「まずは電車で移動したが、山手線に乗り換えた途端にすごい大雨……実は今日は鞄の中に折り畳みの傘が入っていた」
「じゃあいいじゃないですか」
「これは演奏家のMさんがオーストリア土産に下さったモーツァルト生誕250周年の傘なのじゃ」
「だから……」
「大事な物だから、濡らす訳にいかないじゃろう」
「……じゃあ、日傘に使いますか」
「こんな大事な物を日に当てたら焼けるじゃろう」
「……じゃあ、いつ使うんですか」
「だから困っているんじゃないか」
「しょうがないね……じゃあ、今日はどうしたんですか」
「電車から降りたら、すきっと上がって、いい天気……わしの普段の行いの良さじゃな」
「はいはい……」
「さて、まずはうち合わせ。今日はジーサス・クライスト=スーパースター(ジャポネスク・バージョン)の最終リハーサル……9日が初日じゃ」
「それでおしまいじゃないんでしょ」
「ちょっと休憩してお昼休み。時間が45分くらいなので、ラーメンなら時間もいいじゃろうと思って中華のお店へ……これがトロい、トロい……出るまで45分掛かったため、大あわてで食べて戻り、『ライオン・キング』を鑑賞」
「これもお馴染みの作品ですねえ」
「動物だけでなく、植物なども人間が着ぐるみで登場する。まあこれだけでも面白いのじゃが、舞台セットも見応えがある。背景の変化、小道具、本水や宙乗りも登場……まあ、これは先月見た舞台もそうじゃが、こうした仕掛けを使うために作った舞台はさすがに素晴らしいな」
「そうですか……ストーリーは」
「これもミュージカルらしく単純で分かりやすい。主人公を父親殺しに仕立てた犯人が、それを追求しながら同じ場所で自分がやったことを告白しちゃったり……まあ、ミュージカルってこんなものじゃろう」
「甘いですね」
「昔のミュージカル映画のファンじゃから……喧嘩をしていた二人が一曲歌って踊ると、もう愛し合う仲になっているじゃろう……」
「そんなものですか」
「今回も主要な人物……って動物だけど……これは一人一役。脇役は一人で様々な動物を演じる。なかなか大変なのじゃなあ」
「それによって歌や踊りも代わるのでしょう」
「それぞれの役柄があるからな。さて、そういう訳で……無事仕事を終えて……」
「こんなに早く帰って来た」
「そうじゃな、いつもはやっと職場を出る頃じゃ……それがもう一杯やっている……これが幸せというものじゃろう」
「何悟っているんだか」
「はい、今日はこれまで」

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