3月29日 新宿末廣亭・夜席

「さて、翌日の岡山の会社の離任式へ行く決心をして、夜行バスで出発……その前に新宿末廣亭へ行くことにした」
「そちらが実はメインですね」」
「みんな分かっているかも知れないなあ……」
「それで、時間を見ておいたのじゃが、家内が余計なことを言い出して……」
「何です」
「背広を買った方がいいと言うのじゃ」
「それはまた、どうして」
「岡山にいる間に少しやせて、ズボンなど握り拳が二つ入るようになった。上着も何となくブカブカなので、新しいのを作るというのじゃ」
「それで遅れたんですか」
「そういうこと……だいだい洋服のAHOYAMAさんじゃが」
「余計な字が入っていますよ」
「え、そう……とにかく背広の値段が分からない。5万円の背広を2着買うと、2着目は千円になる」
「へえ」
「それで儲かっているのなら、1着2万5千5百円……背広って本当はいくらなのじゃろう」
「分かりません」
「それで新宿へ行くと、完全に遅刻。ただ、おかげで昼席に出ていた神田蘭ちゃんとバッタリ」
「あらま」
「前座の桂夏丸君には間に合わなかったが、ちゃんの情報では『青い鳥』を演ったらしい」
「聞けないのは残念でした」
笑福亭里光が『動物園』を演じている間に夏丸君に会っておみやげを渡した」
「では、その続きで、コントD51
おばあちゃんコントじゃが、わしが余計なギャグをやってしまって……でも、それをすぐネタにして続ける。素晴らしいなあ」
桂米福
「『道具屋』だが、子供の頃に聞いたのこぎり、股引、木刀、お雛様……最近あまり聞いていなかったということを思い出した。懐かしさもあるが面白かった」
三遊亭春馬
「代演で桂歌若だった。出し物は『転失気』、小僧がきわめて論理的に物事を判断して行くのがおかしかった。残念ながら時間切れで落ちまで行かなかった」
松旭斉小天華
「お馴染みのマジック、安心して見ていられるな」
三遊亭遊吉
「『鰻屋』。無駄をはぶいたコクのある味わいじゃな。いいテンポだった」
三笑亭夢丸
「どうも、お世話になりまして……つまらん手土産にわざわざお礼をいただいてすみません……」
「私的に使わないの」
「出し物は『家見舞い』……一番前の真ん中にいた客が、寝るわ、よだれかけをつけてカップ麺は食うわ、噺の最中にプログラムはチェックするわ、ビニール袋をガサガワするわ……周りの人は集中力がなくなっているのが分かった。わしは少し離れていたのでまだよかった」
「落語と何か関係が……」
「そういう客がいるからこういうネタを選んだのかも知れないなって思って。でも品を落とさず演じるのはさすがじゃな」
晴乃ピーチク
似顔絵漫談じゃが、小学生の女の子を描いた。わし一人が手を挙げた時には、『あんたは若いからまだ顔が変わる』ということで拒否された。ううん、小学生ならいいのじゃろうか……わしは定年退職で関東に戻ったのに」
「定年だったんですか」
「いや、これはちょいとしたギャグじゃ」
三笑亭笑三
「『テレスコ』じゃが、この人の挿入ギャグは一流じゃな。円生がくどいと言っていた落ちがこの人ならピタッと決まる。円生の研究は素晴らしいし、いちいちもっともということを述べているが、それは本人が演じる場合であって、全てではないということが分かるなあ」
春風亭小柳枝
「『長屋の花見』。大家が店賃をたてに脅して連れ出すのじゃが、わしの記憶では『酒柱』を落ちにするのが東京では多かったが、小柳枝師匠のを聞くと、酒は酒でひとまとめ、そこで『酒柱』を使い、蒲鉾と卵焼きにかかっていった……この方がまとまりはあるな」
「仲入り後は、三遊亭笑遊
「『寿司屋は楽し』。何年か前に聞いたネタなのじゃが……どうしてこんなに面白くなったのじゃろうなあ。最近すごく面白いぞ」
新山ひでや・やすこ
「お馴染みの漫才じゃが、ひでやがおちょくられるとわしが拍手をする。その都度ひでやがわしに駆け寄って文句をつける。わしが応対する……妙なトリオ漫才になってしまったが、他のお客さんも喜んでいたからいいのじゃろう」
桂歌春
「『鮑熨斗』じゃ。正直に言わせてもらうが、歌春師匠の本格落語を聞いたのは初めてのような気がする。前にも一席演じたのを聞いたはずじゃが、どうも……じゃった。これだけ演れるじゃないかって、見直した一席じゃ」
昔々亭桃太郎
「『受験家族』。わしのお土産を使ってくれた。へ、また参りますので……」
「私的に使わないの。林家今丸
紙切り。上の『長屋の花見』はこの日に切ってもらったものじゃ。いつもの『舞子さん』、わしの『長屋の花見』、あとは『松坂大輔』、似顔絵。見てもらえば分かるが、『長屋の花見』がもっとも手の込んだ作品じゃ」
「良かったですね。トリは三遊亭円雀
「『鹿政談』をしっかり演じてくれた。『大仏の目』などのマクラから、政治的背景も説明したトリにふさわしい雰囲気だったな」
「こうして並べると不満の一席がありませんね」
「そうじゃな。みんながいい出来、お客さんが少ないのがもったいないという席だったぞ」

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