3月27日 お江戸日本橋亭

「ううう……」
「何を泣いているんです」
「やっと……やっと寄席へ行けた……昨年12月27日以来……」
「3月27日ですから、ぴったり3ヶ月目ですね」
「前日に岡山から茨城までドライブ……つまりお引越。疲れているからどうしようかと思ったが……」
「それでも寄席へ行ったんですね」
「仕方がない、ご贔屓連が出演するのでな」
「とか何とか」
「さて、前座は春雨や雷太、『子ほめ』を落ちまでしっかり演った。マクラの『山は火事』が味があってよかった」
「日本橋亭は一人の持ち時間が長いんですね」
「そうなのじゃ。もう一人、笑福亭和光は『狸賽』、東京のものと微妙な違いが面白かった。落ちも違いがあって面白い……って、実は前に聞いているのじゃが」
「さて、プログラムに出ている人、まずは橘ノ圓満
「昨年11月に二ツ目に昇進、富多葉から改名した。前座時代には『ラブレター』をよく演っていたが、痴楽そのままの……まあ一言で言えば時代錯誤……現代に通じない噺だった」
「昨年3月に初めてほめましたね」
「『狸賽』がすごく良かったのでほめたのじゃが、この日は『孝行糖』。マクラの売り声が見事、また見直したぞ」
「良かったですね。続いて三遊亭遊史郎
「今日は遊史郎師匠の2席。まずは『転失気』、やっぱり小僧の描写が見事じゃな。子供が出来て、いい雰囲気になったぞ」
「おめでとうございます。続いて、仲トリは三笑亭夢丸師匠」
「マクラでわしのことを取り上げて下さった。それで出し物は『夢丸新江戸噺し』の『かがみ』じゃ」
「昨年入選した作品ですね」
「初演を聞いたが、何度か演じてこなれた感じじゃな。よくまとまっていい噺になっている……詰まらない手みやげで失礼を……今度お酒を持って参りますので……」
「ネットを私的に使わないの! さて仲入り後の食いつきは瀧川鯉朝
「わしが『可愛い』って声を掛けて、もう40近いことを告白、客席とのやりとりが妙な盛り上がりを見せた」
「不思議な雰囲気ですね」
「彼は芸協所属なのに、落語協会の『円朝祭り』に必ずやって来る。シャイな雰囲気が好きじゃ……詰まらん手みやげで失礼を……今度くさやを持って行くから……」
「何ですくさやって」
「今日の落語でネタに使われていたのじゃ。その場にいないと分からないじゃろうな」
「出し物は何でした」
「ううん……『ペコちゃん物語』」
「……何です、それ……」
「自作のネタじゃろう……店の前のペコちゃんと人々との触れ合いやすれ違い。彼らしいシャイな気分もあって面白かったなあ」
「次は色物で、江戸家まねき猫
「もちろん、鳴き真似。お馴染みのテレホン・ショッピング。お客さんが知らない人も多かったのか、猫八の娘だってんで拍手が起こったなあ。鬼平にも出ていたのに」
「知らないでしょう……トリは遊史郎師匠の2席目」
「『天狗裁き』。声が可愛いので奉行や天狗に重々しさが不足していると言えるが、芝居調で雰囲気を作る部分もあり、工夫されていたなあ」
「出来のいい噺ばかりですね」
「大満足の席じゃな。ずごい。表に出ると、遊史郎師匠がわざわざ挨拶に来られた」
「図々しい大家さんに比べて、落語家さんは謙虚ですから」
「何を言う。わしも謙虚に挨拶に行った」
「それで」
「色紙にサインさせた」
「どこが謙虚だか」
「そういうことで、まあ、すごい! 素晴らしい席でございました」

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