3月18日 京都への旅(宇治を行く)

「さて、そういう訳で」
「……どういう訳」
「ま、とにかく京都へ行って来た」
「今回は洛南へ」
「とにかく朝からどうも調子が良くなくて……まあ、予定だから仕方なく出掛けた」
「最初から消極的ですね」
「天気予想は関西方面も一日晴れるというので、荷物になる傘は持って行かなかった」
紫式部 「そうなのじゃ。途中加西という所で休憩していると、何と雪……おいおい、予想屋また外れかい……」
「大丈夫ですか」
「喘息が出て絶不調、京都まで寝られたから良かったてが……」
「心配しておらんな」
「いえいえ」
「京都から奈良線に乗って宇治へ……具合が悪いのに、荷物が座席を占領していて座れない」
「マナーが悪いですね」
「京都はいつもそうじゃな……もっとも、荷物が多いのだから、他から来た人かも知れない」
「分かりませんね」
「それで、やっと宇治について、少し休憩。わしの普段の行いがいいから……」
「何です」
「晴れて少し調子も取り戻し、源氏物語ミュージアムへ」
「それが右上ですか」
「JR駅から橋を渡る前にある紫式部の像じゃ」
平等院1源氏物語ミュージアムは……」
「外観も撮影したが、大したことがないので省略」
「中身はどうです」
「『浮舟』を主人公にした映画がなかなかよく出来ていたなあ。展示はまあ、こんなものじゃろう」
「その程度ですか」
「まあ、源氏物語に趣味がなければ分からないじゃろうな。ただ映画は原作のストーリーを知っていると色々面白い場面もあって見応えはあったぞ」
「そうですか」
「さて、紫式部さんに戻ると、そこが平等院への参道になっている」
「もう上に写真が出ていますが」
「まずは10円玉でお馴染みの鳳凰堂
「ああ、お金にデザインされていますね」
「手に10円玉を持って写真を撮っている人も多かったが……」
「どうかしましたか……」
「次の写真に行こう」
平等院2「右ですね……これは」
「屋根の鳳凰……だから鳳凰堂という」
「ああ、なるほど……これが何か」
「……」
「……」
「分からないのか」
「全然」
「これが1万円札にデザインされている」
「……え、そうなんですか……」
「貧乏人だから仕方があるまい」
「確かに……1万円札なんて、数年見ていませんが……まだ聖徳太子ですか」
「……一昨年の落語芸術協会75周年を記念して、1万円冊は三遊亭圓朝になった」
「へえ……ちっとも知りませんでした」
「5千円札は柳家金語楼じゃ」
「勉強になりました。千円札はかめさんで、知っていますが……」
「それは『かめ』ではなく『なつめ』と読むのじゃ」
「あら……また勉強になりました」
「しかし、1万円をかざして写真を撮っている人はいなかったなあ」
「屋根の上ではちょっと遠いですからね」
「そう言えば紫式部は2千円札だったなあ」
「ああ……大臣さんが記念紙幣だって断言をしてから世に通じていないお札ですね」
「わしも1枚コレクションしているが、それ以外出会っていないなあ……」
「写真を見ても分かるが、ここまでしっかり晴れていたが、出る頃には空は雲に覆われ、冷たい雨が降り始めた」
「傘を持っていないんですね」
「これから宇治川に出て『平家物語』の宇治川先陣の場所を見に行きたかったのじゃが」
「ダメですか」
「喘息で具合が悪いので、空調の利いている演奏会場へ早く入ってしまおうと思って、後は断念」
「源氏物語だけで、平家はあきらめましたか……やっぱり源氏が強いですね」
「源平の合戦で源氏が勝ったという前提のギャグじゃな……ところで、お前さん、『源氏物語』の源氏と、平家を破った源氏は同じ一族だと知っているかな」
「……同じ一族なんですか……ああ、名字が同じだから同じだろうって……」
「あれは名字ではなく氏という」
「ああ、宇治という地名との洒落ですね」
「お前はつまらない事だけ頭が働くな」
「誉めていただいてありがとうございます」
「誉めていないが……とにかく光源氏と平家を破った源氏は同じ一族なのじゃ」
「だって、光源氏は架空の人物でしょ」
若紫ノ君 「作者、紫式部は藤原氏の一族で、実際には『藤式部』と呼ばれていたらしい。紫というのは、源氏物語の理想的女性『紫上(むらさきのうえ)』から取ったのじゃ」
「へえ」
「源氏物語の主人公は家来の源氏の一族に世話をさせて、それで光輝くように美しいから『光源氏』と呼ばれた」
「今のタレントなどでいうと、どんな感じでしょう」
「ううん……わしかな」
「……はいはい」
「それで、現実にも、藤原氏の守護に当たっていた源氏が力をつけて平家を滅ぼすことになるから、光源氏と平家を滅ぼす源氏は同じ一族なのじゃ」
「へえ」
「まあ間に200年近くの時間があるからな」
「そうですね……それで、写真のビンは『若紫ノ君』って……」
「焼酎のビンじゃが、紫式部の出身は京都北部の紫野というところ……もちろん、額田王の和歌とは違うぞ……そこで、人物に紫を用いたのじゃ」
「難しい話」
「それが、源氏の奥さんで、もっとも理想的な女性として描かれている『紫上』なのじゃ」
「ふうん」
「さて、彼女は子供が出来なかったため、他の女性に生ませた子の養育係になっていた……どんな気持ちだったのじゃろう……そう思って読んでいると、奥が深い作品じゃなあ」
「難しい話はいいや」
「ビンはたまたま店で見つけたという……ただそれだけのことじゃ」
「深い意味を期待している人はいない」
「さて、それで、平家物語の舞台へ行くのを断念したのじゃが……」
「何かありましたか」
「電車に乗ったとたんに晴れて、すっきり……」
「あらら」
「これなら宇治合戦の舞台まで行くのじゃった」
「普段の行いが悪いですね」
「さて、この旅のメインは……」
「次のページで」

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