12月17日 新宿末廣亭 夜席

「さて、新宿末廣亭で、夜席が終わるのが9時頃。そこから新宿駅まで歩くと15分から20分」
「津山へ行く夜行バスがいい時間なんですね」
「9時40分じゃ。ちょうどいい時間じゃろう。少し延びても大丈夫なので、寄席から夜行バスというのはわしの定番じゃ」
「はい、それで寄席の報告に行きましょう」
「前座は笑福亭和光の『桃太郎』。上方の型で、東京のものと少し違いがあるが、今日の噺では親が寝てしまうという伏線があって面白かった」
「後はプログラムの人ですね。まず三笑亭笑松
「『壺算』じゃ。人によって色々の演り方があるが、その辺りの聞き比べが面白いなあ。落ちも色々工夫されている」
「今回の落ちは」
「『この小さい瓶は持って帰って下さい。その代わりお金も返します』という、間抜け落ちになるのか」
「続いて」
ヴァイオリン漫談。ヴァイオリンの音で、救急車や新幹線、呼び出しと行司などを演じた。玉木宏樹さんにおしゃべりヴァイオリンがあるが、磨かれて来るのが楽しみじゃな」
三遊亭遊史郎
「『六尺棒』、息子が若旦那風になるのは彼ならではというところじゃろうな。可愛らしい息子じゃ」
桂歌若
「ご挨拶していて聞きそびれた」
「次はぴろき
「お馴染みのあやしいギタレレ漫談
春雨や雷蔵
「『子ほめ』を演じた。前座が多く取り上げるネタじゃが、やはり大物が演じるとひと味違う。こんなに面白いのかなあと再確認することの多いネタじゃ」
三遊亭円馬
「お正月を描いた『かつぎや』じゃ。権助や小僧達の人物がよく描かれている。年始の書き付けで縁起の悪い方で落ちにしている。この人のお馴染みのパターンだな」
小天華
「いつものマジック
圓雀
「『紙入れ』を演じたが、夜席のためか、丁寧な作りだったな。昼席だと子供もいたりして、あっさりと進むのじゃが、登場人物の3人の心情の変化も伝わった」
「仲入り前は昔昔亭桃太郎
「どうも、師匠、ご無沙汰ばかりで……」
「私的な挨拶をしないように」
「そうそう、ネタは『柳昇物語』。例によってゆっくりと入るが、お茶を飲んだりする間に客席では笑い声が起こる。いい雰囲気を作るなあ。大満足じゃ」
「さて、仲入り後の食いつきは春風亭柳好
「『悋気の独楽』じゃ。とにかくテンポよく進み、勢いで聞かせた。ところが、最後に独楽を回すところで、アクシデント」
「どうしました」
「2回目に独楽を回すと、『旦那の独楽がおかみさんの方へ……いや、おかみさんが逃げようとする……いや、おかみさんの独楽が旦那の方へ、すごい勢いで、近付く近付く近付く……お妾さんが逃げる逃げる……』と支離滅裂。これが間違ったなってんで客席も分かったのだが、とにかく前からの勢いでアクセルとブレーキが分からない状態になって、もうおかしくてたまらない。失敗して、元に戻して無事に落ちは付いたが、大喝采の嵐じゃ」
「そういうこともあるんですね。次はひでややすこ漫才
「『ふうふ』と『めおと』の違いから入って、今日はひでやの方が分が勝ったという一席かな」
「はい。続いて桂伸治
「代演で桂小文治の登場。手土産を用意しておりませんで、あんな物で失礼を……」
「また私的な挨拶を……ネタは」
「何と『七度狐』。上方ネタじゃな。内容は変わらず、名前も喜六清八だが、会話は江戸ッ子だ。狐に石をぶつけて怒るところで、鳴り物。川を渡るのに「大井川」の歌入り。そして狐を捕まえるのに鳴り物……実に見事なものじゃ。来て良かった」
三笑亭笑三
「『冬のソナタ』。これは『異母兄妹』という昔からあるネタなのじゃが、設定から師匠がこの題名を使うようになった。そういう話題作じゃな」
「大神楽の喜楽
「卵落としの芸……実は、わしがいると失敗が多い。前の時も1個だけ外して、もう一回やり直しというので成功した。今回は完璧だった。素晴らしいな。客は半分は帰っているが、演じ手の方はどんどんノッて来たという感じじゃ」
「そして、いよいよトリの春風亭小柳枝
「今回は2日ずつ出し物を予告して演じているそうじゃ。今日明日は『文七元結』。時間が短いので最初の夫婦喧嘩は説明で終え、佐野鎚のおかみの説教からじっくり。この時は長兵衛の手が震えている。そして文七を救おうとすると、ここでは文七が震える。もし一番後ろの席から見ていたら、分からなかったかも知れないな」
「細かい演出ですね」
「とにかくまあすごい出来の一言。もっと時間があったら、もっとじっくり描いて、どんなに素晴らしい物になるかと想像もされたが、大満足の席じゃった」
「はい、以上で報告は……あれ、写真は寄席と関係ありませんね」
「これから夜行バスで津山まで帰るというので、スピードワゴン小沢一敬君が見送りに来てくれた。新宿バスターミナルで撮った一枚で、おひらきと致します」

inserted by FC2 system