11月11日 モスクワ音楽院演奏会

「さて、今日は倉敷でモスクワ音楽院の演奏会」
「遠くで大変でしょう」
「列車の接続が悪いから、結局遅刻してしまったが、
わしが到着するのを待ってくれていたらしく、席に着いて10秒後の開演じゃった」
「待っている訳じゃないと思いますが……今回の演奏会は」
「『音楽の喜び』というタイトルがついて、子供の頃の思い出の曲と、一番お気に入りの曲を演奏するというプログラムじゃ」
それで、トップバッターは」
アレクセイ・カマロフさん、写真左上。イサーコワの『休み時間』、小学校時代にピアノに興味を持つきっかけとなった作品だそうじゃ。それからリストの『メフィストワルツ』」
「リストって、バリバリ張り切る曲ですよね」
「若い頃の作品は、テクニックを追究していたからな。これもすごい迫力だったぞ」
「はい、続いて」
「ヴァイオリンのアナスタシア・チョボタリョーワ!」
「舌を噛みそうですね」
「回りでもアナスタシアって呼んでいる。写真右」
「この日記でも何度か登場していますね」
「毎年1回は演奏会に行っているアーチストじゃな。もともと、ロシアのホームページで無料で演奏を聞くことができた。ロシア民謡が美しかったので、全部録音したのに、CDが出たらつい買ってしまった」
「曲は」
「今日は先ほどのカマロフさんの伴奏で、メンデルスゾーンの『甘い思い出』、それにサラサーテの『カルメン幻想曲』」
「やはり後の曲はすごい作品なんでしょ」
「そうじゃ。後半すごいテクニックが続き、やはりCDなどではなく生で見ると、その手の動きなどすごいということがよく分かるぞ」
「へえ」
「それから、8月のアテフ・ハリム氏は、気合いの入った演奏で、見ていてもすごいなという雰囲気だった。それに対して、アナスタシアの演奏は、何でもない曲ですよって顔をして弾ききる。これもすごいな。曲が終わると『ブラボー』の嵐じゃ」
「それほど素晴らしかったんですね」
「続いてピアノのアンドレイ・ジェルタノク。この人は昨年も一昨年も、アナスタシアさんの伴奏をされていた」
「ああ、そうですか」
「こちらにも一昨年の写真を持って行ったが、今回撮り忘れちゃった」
「あいかわらず、どこか抜けていますね」
「曲はチャイコフスキーの『四季』から1、2月、それに『ドゥムカ』。馴染み深い曲だからか、『四季』の方を後で演奏していた」
「なるほど。ここで休憩ですか」
「休憩後はアルチョム・アガジャーノフさん」
「また舌を噛みそうですね」
「写真左上の方じゃ」
「曲は」
「まずコセンカの『雨音』、これはショパンにも『雨だれの前奏曲』という名作があるが、ポツリポツリと降り出す雨の音を描写したもの。アガジャーノフさんは『あれっ』と顔を上げて耳をすませて雨の音を確認していた」
「見ていても楽しい演奏ですね」
「客席でも途中で思わず笑ったり拍手をしたり……楽しい雰囲気だった」
「もう一曲は」
「自作の『午前3時から6時』」
「曲名も変わっていますね」
「夜明けを前にした不安を描いた前半部。24の和音による変奏曲じゃ。そして鳥の声に導かれて夜明けが来る」
「描写の音楽なんですね」
「続いてゲストの川副千尋さん、写真右」
「ソプラノの歌手だそうで」
「ボリショイ歌劇で主役を務めた。ロシア圏以外で初のプリマじゃ」
「すごい人なんですね」
ヴァレリー・ゲラシモフさんの伴奏で、グノーの『アヴェマリア』、小林秀雄の『落葉松』、ラフマニノフの『私はあなたを待っている』を歌った。さすがに声量がすごいなあ」
「実力を感じましたか」
「それから、ゲラシモフさんのバリトンで、グリンカの歌曲を5つ」
「さっき伴奏された人ですよね」
「何でも出来るんじゃな。伴奏することでどう歌うか、アンサンブルの楽しさを学んだとおっしゃていた。写真左」
「演奏はいかがでした」
「いい声じゃ。わしはちょっと高いから、低めの声にしびれるなあ。それも実力が伴ってこそじゃ。だからわしはあまり声楽に興味が持てなかったのじゃな。今回よく分かった」
「はい。以上でプログラムは終了」
「アンコールに川副さんがロシア民謡を、それからお二人でモーツァルトの歌劇から。最後に今日の演奏家全員が登場して、客席も全員が立たされて『カチューシャ』の大合唱」
「すごいですね」
「それが大笑い」
「どうしました」
「一回模範で歌い、次に全員で合唱になったが、ピアノのアガジャーノフさんの気合いがどんどんエスカレートし、歌うのを無視してガンガンテンポも上がっていく。とても歌えなくなってみんなで大笑い」
「でも楽しい演奏会だったんですね」
「そういう訳で、せっかく遠くから来たんだぞってんで、全員のCDをプレゼントさせて……」
「始まった……」
「川副さんには書籍もいただいた」
「図々しい」
「こちらも土産は持っていった。アナスタシアさんが手にしているのは一昨年東京でやった演奏会の時の写真じゃ」
「はい、そういう訳で、無事終了いたしました」

 

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