8月10日 上野広小路亭

「今日は上野広小路亭へ」
「毎日毎日大変ですねえ」
「そうじゃな。これで三日連続、しかも夜席が続いて、一番早く帰ったのが10時半、遅かったのは日付が替わってから……疲れがたまって、明日は一日休養じゃな」
「日曜日の法事の用意があるんじゃないかい」
「あ、そうか……とにかく日曜日が法事の当日で、ここまでは休みがない」
「大変だね。まあ、寄席へ行かなければいいんだから、本人が悪いんだけど」
「それを言っちゃあおしまいじゃないか」
「それでは広小路亭の内容を」
「前座1昔々亭ち太郎の『桃太郎』。今見ることが出来る一番若い新人じゃが、なかなかいいぞ。テンポがいい」
「前座2」
昔々亭喜太郎の『子ほめ』。こちらは落ち着いた雰囲気が出てきたな。そろそろ枕を新しくしないと」
「これからプログラムに出ている人だね」
「まず雷門花助の『●●』、珍しい噺だったのじゃが、何だったっけ……良かったのに、記憶から消えた」
「ぼけてきましたね」
「今度から演目くらいはメモを取るようにしよう」
春風亭鯉枝
「一本調子な感じじゃな……お陰でよく眠れた」
宮田陽・昇漫才
「いつものネタなのじゃが、今日はテンポもいいし、メリハリもあるし、調子がいい。このまま化けるかな」
桂平治
「岡山からわざわざって言っていただいた。へ、土産にと思いましたら、中身が考えていたのと違っておりまして、間抜けなものを持参いたしまして……なにとぞご笑納いただいて、へへへ……」
「ネタは」
「あ、そうか……『湯屋番』。最初から最後まで声はでかいし、元気はいいし……同じ調子で行かれると疲れる声だろうな……要所要所でメリハリがつくから大声に嫌になることもないし、だれることもない。いいぞ」
山遊亭金太郎
「『出来心』をたっぷり。留守宅を探す前半から、花色木綿までの完全版はあまり聞く機会がなかったなあ。面白かった」
松旭斎八重子
「いつものように紐を使ったマジックを中心に」
三遊亭栄馬
「『紺屋高雄』をたっぷり。結婚してめでたしめでたしという形で、落ちを付けなかったが、とにかく人情をしっかり描いていたからいい雰囲気、落ちを付ける必要はなかったということじゃな」
「ここでお仲入りですか」
「席亭の方に挨拶、鳳楽師匠の本をいただいた」
「さて、食いつきは」
「女流講談の神田紫。『四谷怪談』だが、お岩がだまされて売春宿に売られ折檻される発端、真相を知ったお岩が顔を打ち付けて化け物に変身、自殺する第2話……そして今日は第3話。以前ここまでを一話として通しで聞いたことがある。一番不気味でおどろおどろしい場面じゃな。後で踊りも披露した」
新山やすこ・ひでや
夫婦漫才ひでやが馬鹿にされると、わしが拍手をするから……まあ、いつもの通り、楽しい高座じゃ」
瀧川鯉昇
「本当に面白いなあ。『ちりとてちん』は本当に多くの人が演じているが、前半の愛想のいい男の食事が本当に無駄なくテンポ良く進む。とにかくおかしさではNo.1じゃろう」
三笑亭可楽
「8日と同じスポーツ談義。同じというが、客層、雰囲気に合わせて違うことをやっている部分があることに注意じゃ。本当に同じならテープやレコードを聴いていればいい。出掛ける楽しみはこの違いなのじゃ」
桧山うめ吉
「若くて美しくて歌、三味線、踊り……全てが素晴らしいというので、今大人気の芸者……いや、芸人じゃ」
「大家さん、芸者さんをあげている気で見ていたんでしょ」
「CDも数枚出していて、わしもいただいているのじゃが……」
「何か問題が」
「歌はきれいな声でうまいのじゃが、あまりに声量がない。CDは加工されるからいいが、寄席では三味線に負けて聞こえないこともある。お座敷芸だから、芸者と言ってしまったのじゃろう」
「さて、トリは雷門助六
「先代のお得意だった『長短』、一般に演じられているのと人物も違うし、落ちも異なる。多くの人が演じているが、長短どちらかが得意で、気の長い方が得意な人は短い方にテンポが出ない。一方気の短いのが得意な人は長い方がだれる。ひどい時には与太郎になってしまう」
助六師匠は」
「短い方が得意だが、気の長い方もテンポを失わない。いい高座だったぞ」
「はい、最後の寄席としてふさわしい、いい席でした」
「いや、これから夜席で桂歌助師匠の『一笑会』を鑑賞する」
「まだやるの」
「そのご報告はまた今夜」

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